第17話
ごきげんよう、諸君。
引き続き、金髪碧眼美少女ことネームレスちゃんがお送りするゾ。
今回のターゲットであるマクダウェル公爵を無事に始末できたし、動揺する王国兵を狩りまくりーの都を荒らしまくりーのと状況は既に消化試合じみているわけなのだが、私的にはむしろこれからが本番である。
つい先程ティアナ・ネットワークに連絡があり、そろそろオリジナル・セブンを援軍として送り込むという知らせが入ったからだ。
問題はそのメンツ。
よりによって最強コンビを寄越してくるらしい。
つまりは、兄者こと“銀狼”マクシミリアン・エンクラッドとその愛機、デウス・ゼロ。
聖女ことミリア・アーカードとその愛機、アイン・ソフ・オウル。
この二人である。
いやいや私を殺す気満々か貴様。
まだ利用価値がある王国を焦土にするわけにもいかないから全力を出せない以上、いくら私でもあの二人を捌くのは少々骨が折れる……とまでは言わないが面倒である事は確かだ。
ついでに言えばプリンセスもまだ殺させるわけにはいかんしそちらにも気を配る必要がある。
オリジナル・セブンの中でも兄者とミリアは突き抜けて強いため、両者を殺さないように手加減しつつプリンセスが撤退するまで守りきるとなるとなぁ……めんどくさっ。
勝てないとは言わんよ? 首領ほど馬鹿みたいな強さでは無いが、このネームレスもなかなかに大概な実力を持たせてあるのでな。
『──! 超大型転移魔法陣の発動を確認。どうやらティアナ・エンクラッドに嗅ぎつけられたようです。ゼイブルート隊、及びソルロワールはすぐに撤退してください』
『ここまで来て逃げろと?』
『私の判断に、異論でも?』
『……いえ。では、殿はあたしが……』
『その必要は無い。蹴散らせ、ネームレス』
『閣下!?』
ありゃ。
そうこうしている内に来ちゃったようだ。
プリンセスはフェルトちゃんから下された撤退の指示に不服そうだったが、渋々頷いていた。賢明な判断である。
「じゃんじゃじゃーん。実はこっそりついてきていたネームレスちゃんです☆ ささ、お姫様と愉快な下僕の皆さんはとっととお逃げなさい。後は私が片付けちゃうからねー」
『ッ!? い、いつからそこに──』
『ネームレス様の神出鬼没っぷりはいつもの事なんで気にしなくていいっス! 早く退きましょう、ミーナセリス様!』
『え、ええ! わかったわ!』
あちら側の視点では突然現れたように見える私に、プリンセスが大層驚いている。が、フェルトちゃんだけでなく首領までも顔を出してきた事から早く指示に従って撤退したいのだろうクローン兵に咎められ、慌てて後退していった。
その様子を見て、動揺しながらも役目を果たそうとしていた王国兵の残党もじりじりと後退を始めている。さすがに無謀な追撃をするほど馬鹿ではなかったか。ただ単にあまりにも異様な風貌のカオス・レクイエム……つまりは私の愛機に腰が引けているだけかもしれんが。
『な、なんだあれは……コア・ナイト、なのか……?』
『顔が無いぞ……!!』
『超大型転移魔法陣より、二機のコア・ナイトの出現を確認。デウス・ゼロ、及びアイン・ソフ・オウルです。あなたには無用な心配でしょうが、精々気を付けてください。ネームレス』
王国兵がちょろっと触れた通り、このカオス・レクイエムには顔が無い。頭はあるが。
いわゆるのっぺらぼうで、翼も含めて全体が黒い上にパイロットである私の膨大な魔力が禍々しい輝きを放っている事もあり、とにかく不気味な印象を与える機体なのだ。
『……ちっ、遅かったか。城も街も既にボロボロじゃあないか。実に素晴らしい手際だ、忌々しい』
『遠方に複数の機影を確認しました。ナイトメアの下っ端連中でしょう。主の御名にかけて、裁きを下さねばなりません』
『ふん。貴様の主とやらなんぞに興味はないが、俺の可愛いティアナの命を一度奪ったナイトメアのゴミ虫共は一匹残らず踏み潰さねば俺の気が済まん。協力しろ、ミリア』
『ええ、もちろんです。そのためにはまず──』
『ああ。目の前の顔無しを片付けるぞ』
うーん、出てきて早々激おこだなぁ、兄者もミリアも。
なんというか、この二人から明確な殺意を向けられるというのは少しばかり新鮮な気分である。
兄者は
こいつらは表社会においてぶっちぎりの最強コンビで実はひっそり婚約していたりするのだが、お互いがお互いをティアナ関係でライバル視しているというキテレツ極まりない間柄なのだ。君たちはいったいどこを目指しているんだ?
まあ、今はそんな事はいいか。
「これはこれは!! 世界最強と名高いお二人が揃ってお出でになるとは何とも豪華ですねえ。あ、わたくしこれでもナイトメアの幹部……ナンバーズの一員でして。それも、唯一首領直属という特別なポジションにあるんだよー☆ ネームレスちゃんって言うんだ!」
『ほう。それは良いことを聞いた。ならば貴様を痛めつければ首領とやらが釣れるという事か?』
「かもしれませんねぇ。できれば、ですが」
『我々を前にして随分と余裕です、ねッ!!』
自己紹介、ヨシ!
言葉を途中で切ってミリアが突っ込んできた。
アイン・ソフ・オウルの右手には巨大な聖剣が握られており、圧倒的なパワーから繰り出される一撃は山をも砕く。
だがカオス・レクイエムのパワーは、更に上だ。
「よいしょ☆」
『くッ!?』
『ミリア! ちっ、油断しすぎだバカが!!』
聖剣ごとアイン・ソフ・オウルを蹴り上げ、空へと打ち上がった機体を追撃するべくカオス・レクイエムの出力を上げ、両手から無数の光線を放つ。
『マクシミリアンッ!! 合わせなさい!』
『俺に命令するなッ!! 貴様が合わせろ!』
が、私が放った光線はにょいーんと伸びたアイン・ソフ・オウルの聖剣を振るう事でかき消され、その勢いのまま、機体と聖剣を輝かせる。
いつの間にやら兄者のデウス・ゼロも空中へと飛び上がり、ミリアと隣り合わせになって機体の出力を上げている。
「あらら……ここが一応ノエストラードの近郊だって分かっているんですかね……? ま、こんなところで死にたくはないので私も抵抗せざるをえないんだけどね☆」
突然だが、オリジナル・セブンやナンバーズには圧倒的な威力を誇る必殺武器とでも呼ぶべきものがそれぞれに備わっており、もちろんそれはお空の二機も例外ではない。
私のカオス・レクイエムにも二つあるのだが、今回はどちらも使う訳には行かない。片方は威力があり過ぎて王国そのものを潰しかねない“災害兵器”だし、もう片方は敵パイロットそのものを潰す“精神兵器”だし。
つまり私は通常兵装で応じなくてはいけないわけだ。
『“聖剣解放ッ!!”』
『貴様の全てを消し潰すッ!! “アニマ”!!』
「おやおや、困りましたねえ。えーっと……あ、これにしましょうか」
天を衝く巨大な聖剣を振りかぶるアイン・ソフ・オウル。
対象の因果そのものを塗り潰し、ありとあらゆる世界から消失させる一撃を放つデウス・ゼロ。
二つの超兵器が私を襲うが──。
「ベクトル操作……は、しても無駄ですねえ。それごと消されちゃうし」
さすがに真っ向からだとデウス・ゼロのアニマが厄介すぎるので、因果律を操作し、「私が居る場所」を少しいじった。
これにより、二つの超兵器は誰もいなかった事になった空間を抉りとり、私が乗るカオス・レクイエムは今この瞬間、空中に出現した。
『避けられた……!?』
『転移……違う、そんな反応はなかった……なんだ今のは……!』
「はー、危なかったぁ。おにーさん、おねーさん、ひどいじゃない! 可愛い可愛いネームレスちゃんがお空の星になるところでしたよ?」
『『ッ!!』』
気を取り直して、今度は直接串刺しにしようと挟撃してくる二人。
とりあえず真っ赤なエネルギーブレードを生やして。
「よっ」
左右から突き出された聖剣とブレードを受け止め、流れに逆らわず力を殺していく。柔よく剛を制すってやつだ。
『受け流された……!?』
『こいつ……ッ!!』
流れのまま反撃しようとしたが、さすがは最強コンビといったところか。すぐに体勢を立て直して距離を取られた。
『なるほど、相当にできますね……!!』
『……貴様がナイトメアで最強の存在か?』
ん?
「違いますよ? 首領の方がもっと強いです。ま、あらゆる意味でデタラメな首領を除けば私が最強だけど☆」
『……ちっ、そうか。厄介な……』
どうやら兄者が私に興味を持ったらしい。
これまでの短い戦いで、私が予想以上の実力を持っていると察してくれたようだな。
大方、ティアナを守るためにはまだまだ力が足りん、とか考えているのだろうけど。
「おっと」
呑気に会話していると、隙ありとばかりにミリアが聖剣を射撃モードに変更してぶっ放してきた。
ビームの連射を空に踊ることで回避し、反撃……しようと思ったら今度は兄者がミサイルカーニバルしてきやがった。
おのれ、こいつら普段はそんなに仲良くないくせに、いざ戦いとなるとこれ以上と無いほどに息ピッタリなんだよな。
時間は大分稼げたが、どう切り抜けるかねえ。
いっそのことわざと一撃もらってしまおうか?
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