第15話





 ごきげんよう、諸君。

 一応、例のごとく初めましてと言っておこう。


 私は本物のティアナちゃんこと首領によって“ネームレス”と名付けられた名無しの権兵衛にして、ナイトメアの密かな切り札であるナンバーズ・フォー。そして、首領やニアモ、そして世界連盟のトップであるティアナ博士と同じく「ティアナ・エンクラッド」の一人だ。


 切り札なのにゼロとかじゃないのかって?

 ふっふっふっ、甘いな。

 上位三名のナンバーズよりも下の位階に切り札である私を置くことで、自動的に上の三人も「閣下は自分も切り札であると言外に告げられているのだ」と錯覚させる狙いがあるのだ。


 いや、まぁ実際ナンバーズ・ツーは私と並ぶナイトメアの切り札ではあるのだがね。

 フェルトちゃん? アレはなかなかに優秀だが、所詮は優秀止まりに過ぎんよ。替えがきかない存在、というわけでは決してない。

 そうとは知らずナンバーズ・ワンという椅子に座っているのは正直滑稽だがな。与えられた役目を果たすぐらいはしてくれると、信用はしているが。


 ちなみにナンバーズ・スリーは実働部隊のリーダーであり、そうそう表舞台に立つ機会が無いフェルトちゃんや、故あってあまり多くを語れないナンバーズ・ツーを除いた、戦力としてのナンバーズの実質的なトップだ。



 ま、自己紹介はこんなところにして。



『いよいよ目的地が近付いてきたわね……武者震いするわ』



 首領が聴いていないと思っているのか、はたまた戦場が近いとあって気が昂っているのか。近場まで転移で来たのでそんなに時間は経っていなかったりするのだが。

 曲がりなりにもしっかりとお嬢様……というかお姫様していた先程の謁見の時とは打って変わって年頃の少女らしい言葉遣いに変わっているミーナセリス姫。


 彼女はこれが素であり、脳筋国家であるノエストラ王国のプリンセスに相応しく戦いが大好きな性格をしている。

 その割にナイトメアに捕獲された実戦テストの際は僚機が次々と撃墜される様を見て錯乱しておられた通り、少々メンタルが弱い子だった。


 しかし、ナンバーズの末席に加えるにあたって施した強化人間手術で、ついでに人格面も少しいじっておいたので今回は味方がやられてもパニくる事は無いはずである。

 いくら新型とはいえ、乗っているのが所詮クローン兵ではオリジナル・セブンの上位にはたちまち蹴散らされてしまうだろうからな。



 さてさて、新型量産機であるゼイブルートが群れをなし、その先頭にこれまた新型のソルロワール……つまりはミーナセリス姫の乗機がある、という陣形になっているわけだが、その横にこっそりと私のコア・ナイトがついてきている事には誰一人として気付いていないようだ。


 それもそのはず、私ことネームレスの乗機であるカオス・レクイエムには完全なステルス機能を実現する認識阻害魔法が備わっている。

 形にもこだわる首領のお茶目なオマケにより、見た目も透明化しているので中々気付かれにくいのだ。


 これにより、私は出番が来るまで安心して今回の茶番を観戦する事ができるという寸法である。

 元からいるナンバーズの連中とプリンセスが不要な諍いを起こさないように、プリンセスには分かりやすい手柄を立ててもらう必要があるわけだね。

 ま、ナンバーズならばマスターから下された指令を完遂するのは当然だ、として気にもとめてもらえないだろうが。逆に言えばそれはプリンセスを新たなナンバーズとして認めている事の証左であり、ついでに無様を晒したエドラスはますます肩身が狭くなる事になる。とんだ流れ弾だよ。



 予定通りならば後々上位のオリジナル・セブンが援軍としてやってきて、私がジャンジャジャーンと姿を現してそいつを撃退する事になるので、両者が激突する前にプリンセスには撤退してもらう。

 はっきり言って彼女には上位のオリジナル・セブンと戦えるだけの実力は無いので、居てもらっても足手まといにしかならんのである。


 そんでもってできたばかりの世界連盟に手柄を立てさせる必要があるので、私も戦いをそこそこで切り上げて帰還する事になる、と思う。

 本気でやると王国全土が焼け野原になってしまうしな。




 察しのいい諸君らは気付いたかもしれないが、今回の作戦の目的は別にノエストラ王国の首都であるノエストラードを壊滅させる事ではない。


 先述の通りにプリンセスや世界連盟に手柄を立てさせ、そのついでにノエストラ王国において人格者として慕われているハト派の大物を排除し、かの国そのものをナイトメア絶対コロスマンへと仕立て上げる事こそが真なる目的なのだ。



 ちなみにそのハト派の大物というのは、プリンセスもといミーナセリスの婚約者……の父親であるカルロス・マクダウェル公爵の事であり、本来のミーナセリスが実の父のように慕っていた男性である。


 それをミーナセリス自身の手にかけさせる……うーん、なんと悲劇的なのだろうか。



『作戦予定時刻が近いのでターゲットを通達しておきます。今回あなたに始末して頂くのは、血の気が多いノエストラ王国の貴族たちの手綱を握り、国をコントロールする“影の王”と謳われるマクダウェル公爵です。ただし、その息子でありあなたの婚約者でもあるアレサンドロ・マクダウェル氏は決して殺さないように』


『イエス、マスター!! なるほど、公爵様を……となると王宮の一角を吹き飛ばすのが早いかしら? あの、マスター? あたし……げふん、わたくしの父王あたりは始末しなくてよろしいんですの?』


『……ええ、必要ありません。王族は生かしておいた方が利用価値があります。それと、別に口調を誤魔化さなくても結構ですよ。閣下も私もとっくにあなたの素を知っていますので』


『えっ、えっ!?』


『閣下は全てを知る御方。隠し事などできはしません。では』


『えっ、あっ、はい!!』



 フェルトちゃんったら言いたい事だけ言ってさっさと通信を切りよった。

 全力でツンケンしておられるが、わざわざ任務遂行には不要な忠告をしていったあたり、それなりにはプリンセスを認めたようである。

 大方、ミーナセリス自身の方から父王も始末した方がいいのかと質問された事で、信用に値すると判断したのだろう。



 そういう風に洗脳したのだから当たり前なのだが、実際に確認するまでは疑いの目を向ける。

 元はスラムで生活していたフェルトちゃんらしい用心深さだな。そして、信用はしていても信頼はしていない。今頃、万が一の事態に備えた策を首領にプレゼンしているだろうさ。

 プリンセスの体内にも爆弾が仕掛けてあるので今更だが。


 そんな事は露知らず、プリンセスは「あたし、やっぱり信用されてないのかなぁ……へこむわー……」としょげておられる。

 ツンケンしておられるから分かりづらいけど、本当は逆なんだよなぁ。



『マスターはいっつもあんな感じなんで気にしないでいいっすよ』


『えっ、そう?』


『そうそう。それよりも見えてきましたよ、ノエストラードってアレの事でしょ』


『あっ、ほんとね。よしっ、皆気合いを入れるよ!!』


『うーす』



 と思いきやなんかクローン兵どもがプリンセスを慰めておられる。

 見目麗しい若き姫君の好感度稼ぎか? そんな事してもお前らが使い捨ての道具なのは変わらないんだよなぁ。腐っても王族であるミーナセリスにたかがクローン兵ごときの子を孕ませるのは勿体ないし。それならナンバーズ・スリーあたりをあてがった方が万倍有意義だろう。



 いや、違うな。

 作戦前にしょげた結果、プリンセスに足を引っ張られて任務を失敗して、怒ったフェルトちゃんに廃棄される事を恐れているのか。

 国際大会の時にニアモを取り逃してレオン少年とネメハくんの二人と合流させたクローン兵どもとか、案の定あの後フェルトちゃんにデータごと廃棄されて殺されてたからな。


 ま、クローン兵なんざそこらの軍人を拾ってきてクローニングすればいくらでも種類を増やせるし。人間としての設計図をいじって絶対に裏切らないように設定してある以上、どれだけ雑に扱おうが問題ないのだ。




 そんなこんなをしているうちに作戦区域に到達し、近郊からわざわざ直接飛行してきたので当然王国の連中には気付かれており、わらわらとアリンコのごとくコア・ナイトが湧いてきた。


 無論、全部が全部コア・ナイト、というわけではない。

 何せ金がかかるし、それに図体がでかいコア・ナイトばかりでは軍として柔軟性に欠けてしまう。

 それでもやはりその圧倒的な戦闘力もあり、少なくとも前面に出てきているのはほぼ全てコア・ナイトである。


 あの後方に歩兵がいるのだろうが、国軍のものを圧倒する性能を誇るナイトメアのコア・ナイト部隊に対し、生身の人間が何をできるというのか。



 一昔前に存在した勇者だの賢者だのがダース単位で居ても一蹴されるだけ。

 ましてやそれらと比べると遥かに劣るだろう歩兵連中だ。戦場に出しても単なる命の無駄遣いにしかならんのだがな。



 そして──。



『行くわよ、皆!! あたしの国の奴らを潰してやりなさい! その混乱に乗じてあたしがターゲットを消すわ!』


『了解ッ!!』



 先陣を切ってプリンセスがソルロワールの斬艦刀を振り回して突撃し、ゼイブルート隊が後方からそれを援護する形で、戦いが始まった。


 察しがいい者が居れば、自国の機体であるソルドゥインによく似たソルロワールが突撃して来るのを見て、パイロットの正体に気が付くやもしれんな。



 まあ気が付いたところで、そんなはずはないと否定するだろうが。

 まったく、現実は非情だよ。



 なぁ、ノエストラ王国の諸君?


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