第14話







 ごきげんよう、諸君。

 今回は久しぶりにモノホンのティアナちゃんこと私、首領ドン・ナイトメアがお送りするぞ。



 さてさて先日の国際大会襲撃でもさっくり目的を果たした我々ナイトメアだが、しかして帰還したエドラスたちを待ち受けていたのはこの上なく不機嫌なフェルトちゃんであった。

 後から出撃したくせに、誰よりも早く帰還するあたりは流石としか言いようがないな。



 彼女の怒りようは半端なものではなく、傍付きの兵士たちも相対するエドラスたちも完全にお葬式ムード。というか無様な姿を晒した張本人であるエドラスに至ってはマジで殺される三秒前といったところだったよ。


 当然ながら奴自身がそれを誰よりも理解していたようで、氷河期の如きフェルトちゃんからの視線を浴びるエドラスは、見ていて哀れに思えてくるほど顔を青くしていたし面白い程にガタガタ震えて「お許しください……」と連呼していたなあ。



 ま、私の鶴の一声で奴の始末は無しになったんだが。

 まだ役目が残っているというのに、勝手に退場されては困るのだ。

 代わりは幾らでもいるのだが、負ける事が前提の貧乏くじを何人もの駒に引かせるのは非効率的だからね。


 悪いが、エドラスにはレオン少年の初めての強敵枠として戦死するまでもう少しだけ生き恥を晒し続けてもらう。




 さて、済んだ話をぐだぐだと語るのはここまでにしようか。




「閣下、これが……?」


「うむ。ティアナ・エンクラッドが生還し、世界連盟なるものを作ってトップに立った以上、これからの戦いは我らをして厳しいものとなるだろう。故に、こちらも新型を用意しておく必要がある」


「はっ。おっしゃる通りでございます」


「ゼイブルート。ゼイラム系の流れを継ぐ量産機であり、可能な限りコストを抑えた上で量子化機能を与えておいた。ティアナ・エンクラッドの脳を使った生体OSも完備している故、既存のクローン兵どもでもすぐに順応し、移行できるだろう」


「おお……! さすがは閣下!! これがあれば世界連盟などおそるるに足りません!」


「ふ、慢心は禁物だぞフェルトよ。私の最高傑作であるお前が、つまらぬ油断で足元をすくわれる様など見たくはない」


「はっ!! 申し訳ありません!!」



 私の最高傑作、と言ったあたりで一瞬顔がふやけたフェルトちゃんマジわんこ系クール美女。



 巨大戦艦ロード・ナイトメア内部にある工業区画に佇む黒い新型コア・ナイト、ゼイブルート。


 フェルトちゃんに解説した通り、こいつはごく短時間だが量子化が可能で、それを使えば従来なら「ダメだ、避けられない! 直撃する!!」という場合でも「なんちゃって」とあっさり回避ができるようになる。

 出力もゼイラムの上位機であるノイ・ゼイラムの数倍はあるという超ハイスペックマシンだ。

 更に、私の一人を生贄に捧げて作り出した特殊なオペレーティングシステム……つまりはOSのサポートを受けられるため、短い間ではあるが未来予知も可能としており、命中率の補正も従来機とは比べ物にならない。


 見た目もゼイラムより天使っぽさが上がっていたりする。

 飾り……ではなく防御盾として翼もあるしな。黒いが。




 ま、フェルトちゃんの愛機であるインフィニティはこれとは更に比べ物にならん程高性能なんだが。

 量産機とワンオフ機を比べるのもヤボというものだ。



「ナンバーズのアンジェロは如何なさいましょう?」


「心配はいらん。アンジェロシリーズの隠された能力の封を解いておいた。アレを使えばティアナ・エンクラッドのサポートを受けたオリジナル・セブンが相手だろうと勝てるだろう」


「隠された能力、でございますか? それはいったいいかなる物か、聞かせて頂いても……?」


「ふむ、そうだな。簡単に言えばナンバーズの感情に呼応して機体の出力を上げるシステム、とでもいったところだ」


「感情に……ですか」


「既に一度失敗を犯したエドラスは、その点でこれ以上とない期待が持てるだろうよ」


「なるほど!! そのためにあの男を生かしたのですね! さすがは閣下です!!」



 一日一度は必ず私を持ち上げるよな君。

 その優しさを部下たちにほんの少しでも分けてやったとしても、罰は当たらんと思うぞ? 別にどうでもいいが。



「フェルト、例のプリンセスの様子はどうだ?」


「はっ。ミーナセリス・ソル=デ・ノエストラですね? 万事において何ら問題はなく、至って順調と言えるでしょう。唯一の不安要素だったアレの実力も、死なない程度の強化人間手術によって改善出来ております」


「うむ、結構。それでは仕上がりを見させてもらおう。コア・ナイトはソルロワールを使いたまえ。その為の機体だからな」


「はっ!!」



 諸君らは忘れているかもしれないが、以前我々はノエストラ王国の実戦テストを襲撃し、新型機に乗っていたお姫様を誘拐した事がある。

 それこそがミーナセリス・ソル=デ・ノエストラ。

 若干十五歳とまだ成人したばかりの少女で、しかし王族に相応しい気品を漂わせる才媛だ。



 いや、だった・・・かな?

 ナンバーズたちに施した強化手術によって得たノウハウを注入し、新たなナンバーズの候補たるに相応しい力を得た彼女だが、その反面母国を想う気持ちは全て私への忠誠心に塗り替えさせてもらったからな。

 それではとても王族に相応しいとは言えんだろう?


 ついでに言えば内臓や四肢も人工物に取り替えさせてもらったが、まあそんな事はどうでもいいさ。一応生きてはいるのだから文句はあるまい。生身よりも遥かに機能的で高性能なのは私自身を実験台に実証済みだし。


 そしてソルロワールという機体は、そんな彼女のために私が彼女の母国で実戦テストが行われていたソルドゥインをパクリ……もといアレンジし、ナンバーズの専用機と同格にまで性能を引き上げたワンオフ機だ。



 ここまで言えば分かるだろうが、ミーナセリス姫には近いうちに戦死する予定であるエドラスの後釜として、ナンバーズに加わってもらう。

 生憎戦力としては大して期待できないが、事もあろうに国を統べる王族の一人が裏切ったという事が世界中に知れ渡れば、後に続かんとこちらに寝返る者が必ず現れる。

 そういった輩はこれからの世界には不要なので、利用できるだけ利用してさっさと消えてもらうつもりだ。



 他人の足を引っ張る事しか能の無い愚物に、生きる価値などありはしない。むしろ、私の実験体になれる事に感謝してもらいたいぐらいだ。

 ある程度以上のコミュニティを治める者であれば、倫理を無視すれば極めて有効な手段であると理解してもらえるだろう。声だけ大きい無能というのは、どこの世界でも厄介な嫌われ者なのだからな。




 おっと。

 そうこうしているうちにフェルトちゃんがプリンセスをエスコートしてきてくれたようだ。



「──ご機嫌麗しゅう、閣下。栄えあるナイトメアの末席に加えて頂き、感謝の極みですわ」


「ご機嫌麗しゅう、ミーナセリス姫。我が居城たる本艦の居心地は如何かな?」


「いやですわ、閣下ったら。呼び捨てで構いません。もちろん、最高の一言です」


「ふむ、それは結構。フェルト、任務について説明を」


「はっ」



 軽く問答して確認した限り、洗脳は問題なく機能しているようだな。分かりきってはいたが、念の為にこうして確かめておくのは大事だと、私は思う。

 万が一とんでもないガバを晒して計画が台無しになれば、修正が面倒なのでね。



「今回、あなたにはソルロワール、及びゼイブルートという新型機の実戦テストを行ってもらいます。これの結果によってはあなたをナンバーズに加える事も有り得ますので、そのつもりで」


「──! わたくしを、ナンバーズに……!! はっ! 謹んでお受け致します!!」


「内容は至ってシンプルです。あなたはソルロワールを駆り、クローン兵たちが乗るゼイブルート隊を率いてノエストラ王国の都、ノエストラードを襲撃してください。私が指定するターゲットを優先的に狙ってもらいますので、絶対に聞き漏らさないように。命令無視などがあれば、反逆と看做し私が直々にあなたを殺します。以上」


「イエス、マスター!! 我が武勇、とくとご覧あれ!」



 相変わらず部下には厳しいフェルトちゃんである。

 つーかこれ、姫が私と楽しげに会話しているのを見せつけられた事に嫉妬してるな? 卑し系クール美女め。

 だって普段より氷点下の視線がマシマシだもの。私が言うのだから間違いない。



 そうとは知らず鈍いミーナセリスが張り切って出撃していった後、改めて聞いてみる。



「フェルトよ」


「はっ」


「アレはお前から見てどの番号が適正か?」


「はっ。生存を確実にするため控えめな強化しかしていませんので、甘く見積ってもオルテゴと互角……あるいはそれ以下と言ったところかと。通常戦力としてならばともかく、ナンバーズとして見た場合ですとあまり期待はできませんね」


「ふむ、そうか。私も同意見だ。ま、精々道化が踊る様を楽しませてもらうとしよう。とはいえ、さすがに今回ぐらいは生還してもらわないと困るがな」


「フォローの用意をしておきましょうか?」


「心配はいらん。姫には内密で、ネームレスを配置済みだ」


「ッ!? ネ、ネームレスをですか!? まさか、それほどの大事になると……?」


「世界連盟が設立されたばかりのこの時期だ、あのティアナ博士ならば事が起きれば即座にオリジナル・セブンの上位を派遣するぐらいはやるだろうさ。博士がその気になれば我々と同様にコア・ナイトを直接転送する事ができるからな」


「な、なるほど……やはり、最大の障害はティアナ・エンクラッド……というわけですね……まったくもって忌々しい」



 ネームレス。

 あのフェルトちゃんが驚愕したそいつは、ナンバーズの中にあって唯一私だけが指揮権を持つ「ナイトメアの切り札」と呼べる存在だ。

 つまり、司令官であるフェルトちゃんですら、ネームレスを動かす事はできないのである。




 ま、正体は例によって私の一人なんだがね。



 さてさて、いよいよ舞台の幕開けだ。

 演目は、裏切りのプリンセスといったところか。


 楽しんでくれたまえ。

 

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