第13話



 ごきげんよう、諸君。

 ウルゴスちゃん改め電子生命体ティアナちゃんだゾ。


 ……ふっ。

 鏡の前に立ってあざとく猫の耳のように両手を頭の上に添えてぶりっ子してみたが、我ながら美しすぎて困る。

 何故そんな事をしているのかと問われれば、こう返そう。

 私が世界で一番可愛いからだ!

 



「…………何してるんですか、博士…………」


「やぁ、おはようモティエールくん」


「ものすごく居た堪れないシーンに遭遇したのに平然とした顔で返される私の気持ちわかります?」


「いやはや、やはり肉体あってこその人間だな。こうして器を得た事に喜びを感じているよ」


「……またリアクションに困ることを……というかそろそろ慣れてくださいよ」



 そう言いながらも可愛いと呟くモティエールくんの様子からも分かるかもしれないが、私がこうしてティアナ・エンクラッドとして表社会に復帰してから、早いもので既に一ヶ月が経過した。

 当然いろいろな事があったのだが、その中でも大きいのが国際連盟に代わる新たな組織、世界連盟の設立だろう。


 各国の貴族たちがナイトメアの手にかかり死亡したあの国際大会を主催した者として国際連盟はその責任を問われ、元々それほどあるわけではなかった発言力、影響力が激減した。

 そこにばばーんと飛び出た「大天才ティアナ・エンクラッドの生還」というビッグニュースは大きな衝撃と希望をもって世界の人々に迎えられ、すぐに開かれた会見にて私は言い放ったのだ。


 役に立たない国際連盟に代わり、私が主導して世界連盟という新たな連合体を作り、列強をも取り込んで必ずやナイトメアを討ち滅ぼし、平和な世界を築き上げると。


 つまり、私が天に立つってやつだ。


 言うまでもないが、全て私の計画通りである。

 ナイトメアのトップも私の同一存在だし、我ながら酷いマッチポンプもあったものだな。ハッハッハッ!


 あとはまぁ、てっきり私が死んでいるものとばかり思い込んでいたパパンやママンが、再会するやいなや洪水のごとく泣き出したり、兄者は「不甲斐ない兄ですまない」と切腹しそうな勢いで謝り倒してきたりと、主に身内関係でとても苦労した。

 ここだけの話だが、危うく家族に軟禁されかけたゾ。私が立たなければ世界はナイトメアの手に落ちる、と誠心誠意説得する事でどうにかこうにか納得してはもらえたが。



 ちなみに、オリジナル・セブンに隠された能力である「電子生命体ティアナちゃんからのサポート」が解禁された事を知った兄者は、その奇行に慣れているはずのパパンやママンですらドン引きする程に狂喜狂乱していた。

 大好きな妹といつでも一緒に居られるんだものね。それにしても凄まじい喜びっぷりだったが。



 それはさておき。



 私以外から見て、私と奇妙な縁で結ばれたレオン少年御一行に関してだが、彼らの母国であるルクセラが私率いる世界連盟への参加を表明した事と、私自らの推薦もあって、特別待遇で士官学校を急遽卒業し、精鋭中の精鋭が揃う予定である「ティアナガード」という部隊への配属が決まった。

 これはその名の通り私の身辺警護を主任務とする親衛隊で、仮にもオリジナル・セブンを操る事に成功したレオン少年はそのままエンドウルゴスのパイロットとして認められ、そのレオン少年を未だに圧倒する能力を持つニアモにはモティエールくん主導のもとで新開発された純白のコア・ナイト、アストライトが専用機として与えられた。


 このアストライトという機体は、モティエールくん曰く「オリジナル・セブンを超える新時代のコア・ナイト」を目標として、私が遺したオリジナル・セブンのデータを元に開発されたらしい。

 その名前が示すのは、「未来への希望」。意外とロマンチストなモティエールくんらしいネーミングだな。


 しかし、作業は難航を極めたとか。

 人類史上最高の大天才である私が生み出した傑作たるオリジナル・セブンを超えようというのだから当然である。


 開発にかかるコストも馬鹿にならないため、やはり大天才を超えることなど不可能だった、と結論付けられ危うく開発中止になるところだったそうで、しかしそこに当の私が帰還したというわけだ。


 話を聞いた私は早速開発途中だったアストライトの各種データを拝見し、様々な所にあった問題点を修正。更に新たな装甲材を開発する事でモティエールくんが設定した無茶なスペックを満たす事に成功。

 晴れて新時代の試作機としてロールアウトしたものがニアモに贈られたというわけだ。


 私の作業模様をすぐ傍で見ていたモティエールくんは、さすが博士! と目を輝かせながらも時折悔しそうにしていた。

 まだまだ私には遠く及ばない事を実感したのだろう。

 彼女は戦闘も開発も最強な私と違って、身体能力がショボすぎるので直接戦闘をこなす事ができないからな。得意分野である頭を使った仕事ぐらいは私に勝ちたいと思っているのだ。そうなれば私の負担が減るからな。愛いやつめ。


 さて、では残ったネメハくんはどうしたのかというと……。



「ようやく完成したか」


「アストライトはとにかく高性能である事を追求しすぎた弊害として、生産コストがありえない程に高くなってしまいましたからね……」


「うむ。量産機ですら既存のコア・ナイトを大きく凌駕するナイトメアに対抗するためには、できる限り生産コストを抑えた上でこれまでの機体を圧倒する次世代機を生み出す必要がある」


「その答えがこれ、ですね。もっとも、この子もこの子で試作機らしく少々ハイコストになってしまいましたが」


「だが次世代機の種にはなる。ネメハ少女にはこの子と共に実戦データを集めてもらおう」


「了解しました。そのように伝えておきます」


「頼む」



 圧倒的な性能を誇るナイトメアのコア・ナイトに打ち勝つための次世代機、ソロモン。

 そのプロトタイプこそが今目の前にあるデア・ソロモンで、自分も専用機が欲しいとごねる不遜なネメハくんのために用意した高性能機を更にチューンナップした専用機だ。つまりは名付けるならネメハ専用デア・ソロモン、と言ったところだな。

 世界連盟の設立に伴う多忙なスケジュールの合間を縫って作業を進めてきたので、随分と待たせてしまったよ。


 レオン少年のエンドウルゴスやニアモのアストライトと比べてしまうとやはり劣るが、エースパイロット用の高級機として設計された次世代機を改造したものなので、少なくとも各国に配備されている既存の機体よりは遥かに高性能と言える。

 エンドウルゴスやアストライトもそうだが、飛行可能だしな。


 ネメハくんには、指揮官機としても想定されているこの機体の高い通信性能を活かして、レオン少年やニアモを顎でこき使う司令塔の役割を果たしてもらうとしよう。

 ちなみに機体カラーはピンクである。


 レオン少年は黒、ニアモは白、ネメハくんはピンク……がそれぞれのパーソナルカラーとなりつつあるな。

 やはりエースには専用のパーソナルカラーが付き物だ。若人たちは期待に見合っただけの戦果を上げて欲しいものだね。



 モティエールくんがネメハくんに新機体を授与している内に、私は私で世界連盟に参加している国へ供与する新型機の手続きを済ませておかなければなるまい。

 これらはそのまま参加国の戦力として運用するも良し、独自の次世代機を開発するためのテストベッドとして温存するも良しだ。

 国際連盟のように参加したはいいがうまみが少ないのでは、何のためにわざわざ世界連盟を新しく作ったのか分からなくなってしまうからな。外国はエサをぶら下げて従えるのが一番分かりやすくていい。



 ああ、そう言えば。

 私は今自室で端末と睨めっこしながら事務作業を進めているのだが、実はここ……世界連盟本部は、建物ではない・・・・・・


 では何なのか?


 窓の外を見れば分かるが、まずここはお空の上だ。

 つまり飛んでいるのである。



 空中戦艦マザーティアナ。

 元は私のための移動する研究所としてモティエールくんを筆頭とする帝国の科学者たちが設計、建造した巨大戦艦で、帰還した私がそれを世界連盟の本部として改修した。


 一切の自重がない首領謹製のロード・ナイトメアと比べてしまえば心許無いが、それでも既存の戦艦と比べればあまりにも圧倒的な戦闘力を誇る超大型艦である。

 マザーティアナ級一番艦マザーティアナ、が正式名称になるかな。

 ちなみに余談だが、全長は3kmにも及ぶ。

 いやデカすぎィ!! と思うだろう? ところがどっこい、ナイトメアの本拠地でもある巨大戦艦ロード・ナイトメアは、全長なんと7kmもある。それと比べると可愛いものだろう。



 ──ふっふっふっ、いよいよもって本格的に世界が回り始めてきた。

 幸いにして、我々人類の敵となる神の軍勢を含めた外来宇宙生物はまだまだ襲撃してこないはず。



 少なくとも、宇宙人どもが現れるまでには人類を取りまとめておかねばなるまいが、事は順調に運んでいる。

 極めて可能性が低いが、しかしとびきり危険な緊急事態が起こる事も頭に入れつつ、計画通りに進めるとしよう。



 む、来たか。聖女ミリアよ。


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