挿話 聖女1



 ああ、主よ。

 御身の導きに感謝致します……。



 さて、ごきげんよう皆様。

 私の名はミリア・アーカード。

 偉大なる唯一絶対の主を崇める世界的組織、聖教会を取りまとめる立場にある者です。



 つい先日、世界の平和を維持するための力であるコア・ナイトの祭典を、かのテロリストたち……ナイトメアが襲撃するという事件が起き、痛ましい事に非常に多くの方が亡くなる結果となってしまいました。


 その多くは貴族の方々でしたが……その全てが裏で悪事を働いておりましたから、これも因果応報……加護を失ってしまった彼らの自業自得という事でよろしいでしょう。

 しかし、何の罪もない若者たちにまで被害が出ているのはいただけません。あるいは、これも主が我々に与えたもうた試練という事なのでしょうか。であるのならば我々は一致団結し、この災厄に立ち向かわねばなりません。



 ただ、悲劇を打ち消して余りあるほどの吉報も、世界中へと届いたという事もまた変わりようのない事実。

 というのも、ナイトメアによってその尊い命を落としたとされていたティアナが、私の素晴らしい友人が、なんと生きて再び我々の前に姿を見せてくれたのです!!



 ああ、ティアナ。

 私の可愛いティアナ。

 世界はこんなにも悲しみに満ちているというのに、あなたはまたその尊い光で世界を照らしてくれるのですね……。



「──様、聖女様!」


「あら……? どうされました、枢機卿?」


「どうされました、はこちらのセリフですぞ? ティアナ様の生還が喜ばしい事は確かですが、会議の途中でトんでしまわれては困ります」



 私としたことが、いけませんね。

 聖教会の今後を決める重要な会議の最中だというのに、ついうっかりティアナを想うあまり意識を飛ばしてしまっていたようです。

 うう、でも早く会いたいですね……。



「……改めて、情報を整理いたしましょうか」


「つい先日起きた国際大会襲撃事件において、来賓として招かれた貴族の大半が死亡、あるいは行方不明となっており、彼らを守らんとした警備隊にも大量の死傷者が出ております」


「そちらに関しては既に派遣済みのレスキュー隊がうまく事を運んでくれると信じるほかありません。警備隊の方々は残念でしたが、貴族の方々は身をもって罪を贖った。全ては主の思し召しです」


「左様でございますな、聖女様。あるいは、彼奴等の罪が重すぎた故にその命一つでは贖いきれず、警備隊の皆様までもを巻き込んだ、と見るべきやもしれませぬ」


「だとするなら、なんと哀れな事でしょう。せめて勇者たちに死後の安寧が訪れる事を祈るばかりです」


「そして罪深き愚か者共には地獄の裁きを、ですな」


「然り然り」



 実際問題、今回の大会に招かれた貴族様方は揃いも揃って裏で悪事に手を染めている咎人ばかりでした。

 そしてその全てが裁かれたのです。

 これを主の思し召しと言わずしてなんと言いましょうか。



「そして、恐らくはその最中にかの大天才、ティアナ・エンクラッド様がナイトメアの支配下から抜け出し、会場を訪れていたエルティリーゼ・モティエール博士率いる帝国科学特務隊の方々に保護された、という筋書きでしょうかな」


「つい先程発表された限りでは、そうですね。しかし、私が聞いた話ではティアナは空から最後のオリジナル・セブンと共に舞い降りた、との事でした」


「なるほど、では……?」


「あるいは、ティアナは単に時が来るまで身を隠していただけ、という事も考えられます。ですがこの際それはあまり重要では無いでしょう」


「然り然り。重要なのは今後の身の振り方ですな、聖女様。何せ、ティアナ様は各国が身勝手にもバラバラに動いてしまっている現状を嘆き、統率力を発揮できない国際連盟に失望しておられた」



 ティアナという巨星が帰還した事により、時代は大きく動くでしょう。

 その流れに取り残されては、いかに我々聖教会といえどあっという間に没落してしまいます。



 先程開かれた帝国の会見で、我らが大天才ティアナはまたとんでもない事を言い出しました。

 それが──




「──新たな連合組織、“世界連盟”ですか」



 ティアナを擁する帝国が核となって各国に呼びかけ、リーダーシップを発揮できておらず、まるで役に立っていない国際連盟という古い組織を解体し、代わりに設立する新たな枠組み。


 そのトップにティアナが立ち、彼女が持つ圧倒的な求心力と技術力をもって列強をも取り込み、ナイトメアという巨悪に立ち向かうと言うのです。



「恐ろしい事に、既にルクセラやノエストラをはじめとする多くの国々が参加を表明しておりまする。根回しの早さからして人知を超えておりますな」


「あのティアナが頂点に立つ組織とあらば当然でしょう。ナイトメアが持つ技術力は凄まじいものがあり、各国の独力ではとても対抗できそうにもありませんからね。そこにティアナの助力を得られるという話が転がり込んでくれば飛びつくのは自然な事です」


「ふむ。では、聖女様。やはり我々も?」


「ええ。我々聖教会もティアナ率いる世界連盟に参加し、共にナイトメアと戦いましょう。最早国際連盟は沈没寸前の泥舟ですからね」


「承知いたしました。それでは皆様、今日のところはこれにて」


「そうですね。本日も、主の導きがあらんことを」


「「──AMEN」」



 聖教会の理念である弱者の救済を成すためにも、私個人の感情としても、ティアナに協力しないという選択肢など最初から存在しません。

 枢機卿たちもその事を理解しているのは幸いでした。



 しかし、これからナイトメアとの戦いが本格化するのは疑いようもありません。

 それに備えて聖教会の戦力を増強しておく必要もありますし、私情を抜きにしても一度ティアナと会って話をしなければなりませんね。



 いくらオリジナル・セブンとはいえ、私のアイン・ソフ・オウル単機では限界があるでしょうから……。




 主よ、迷える我らをお導きください……。

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