第11話
ごきげんよう、諸君。
今回も私ことウルゴスちゃんがお送りするぞ。
秘密を盾にホモとロリコンと男装腐女子の帝国兵を買収した私は、改めて彼らの機内のモニターにお邪魔する事で正真正銘ティアナ・エンクラッドその人であるという事を証明し、今は彼らもウキウキで案内してくれている。
『もうすぐでエルティリーゼ博士が避難しておられる最奥部に着きますが、これからどうされるのですか? ティアナ博士』
「おや、それを君たちに言う必要があるのかね? 好奇心は猫をも殺すと言うぞ」
『あ、あはは……聞いてみただけです……そうですよね……まずは我々のような下っ端ではなく上の方々に話を通すのが筋ってもんですよね……』
「分かっているではないか。ならば無駄な口は叩かない事だ。モティエールくんをナイトメアの魔の手から守りきった手腕だけは評価してやるがな」
『はい……』
とは言ったものの、今回の件におけるナイトメアの目的はあくまでこれからの世界に不要な薄汚い貴族の排除であり、モティエールくんの身柄を確保する事は奴らにとって全く重要ではない。
何故なら、私と同一人物なのだから当たり前だがナイトメアには既に首領という世界最高の頭脳がおり、各国のソレを大きく上回る技術力をも保有しているためだ。
ついでに言うと「ティアナ・エンクラッド」の脳を培養した生体コンピュータをも作り出しているので、わざわざ科学者を誘拐してくる必要性も無い。
ティアナ……というか我々はたった一人で全人類の合計を遥かに超える叡智を持っているからな。人手に関しても作業用機械やアンドロイド、あるいはクローン兵どもを使えばいいためわざわざリスクを犯して各国から攫ってくる価値がない。
もっとも、当然ながら表社会に生きる世界中の人々はそんな事を知る由もないから、警備は密にして然るべきだが。
そんな事を考えながらエンドウルゴスを動かしている私に、ふと何かが気になった様子のレオン少年が質問をしてきた。
「あの、ティアナ博士」
「何かね、少年」
「エルティリーゼ博士ってどんな方なんですか? 当たり前なんですけど直接会った事が無いから、どういう人なのか少し気になってしまって」
「ふむ、そうだな……十中八九私が死んだ影響をモロに受けているだろうからあまりあてにはならんが……」
エルティリーゼ博士、ね。
いつもモティエールくんと呼んできたから、他人にそう呼ばれているのを聞くと妙な気分になるな。
質問してきたのはレオン少年だが、一人前のパイロットになる事を目標とするネメハくんも気になるようで、ネメハ機の頭部もこちらを向いている。
ニアモは相変わらずマイペースになんか食ってる。
さっきからもきゅもきゅと音が漏れてるもの。
「歳こそ私より上だが、私にとっては可愛い妹のようなものだと思っているよ。私生活にまでああしろこうしろと口うるさいのが玉に瑕だがね」
「妹、ですか。仲良しなんですね」
「まぁな。そこらにいる平凡な一般人だった彼女を私が拾い、助手にしてありとあらゆる知識を叩き込んできた。私が死んだ今となっては、間違いなく世界最高の天才だろう。ナイトメアの連中を除けばな」
『ティアナ博士のおっしゃる通り、研究所での一件以降の彼女は、鬼気迫る勢いで新たなコア・ナイトの開発に勤しみ、博士の後継者に相応しい偉人となるべく寝る間も惜しんで研究を続けておられる。時折、我々が恐怖すら感じるほどに』
真面目な声色で言ってるけどロリコンなんだよなぁ。
というか話に割り込んでくるんじゃない。
「それは……復讐に囚われているって事ですか。ティアナ博士を奪った、ナイトメアへの」
『……そう、だろうね』
「とっととおっ死んだ私には耳が痛い話だ」
『あ、いえっ!! 決してティアナ博士を責めているわけではないのです!! 悪いのは全てナイトメアなのですから!』
「分かっているとも」
ま、生憎コア・ナイトのパイロットとしては落ちこぼれもいいところなのだがね。だからこそ、自らの得意分野である研究に没頭しているという事だ。
私が言うのもなんだが、モティエールくんは私の事を心の底から敬愛していた。その割にやたらとツンツンしていたが、まぁそういう性格なのだから仕方がない。
要は愛が重いツンデレさんなのだ、あの子は。
……なんだか、いざ再会してしまったが最後、二度と離してくれなくなる気がするぞ。
『……着きました。この扉の向こうに、エルティリーゼ博士がおられます』
「うむ、ご苦労」
うーむ、うーむ……。
なんだか、ちょっと開けるのが怖いなぁ。
深呼吸でもして気を落ち着け……ようと思ったがそういえばこの身体はコア・ナイトだったか。
こんなところでエーテルエンジンの出力を上げても仕方がないどころか無駄な諍いを起こしてしまうだけだな。
『ティアナ博士、わたくしたちは……』
「うむ? うむ。君たちはとりあえず大人しくしておいてくれればそれでいい。話は私がしよう」
『もきゅもきゅ』
「ニアモ、ずっと食べてるね……というかどこから食料を?」
『えっち』
「なんで!?」
なんかレオン少年とニアモがコントをしておられる。
少年よ、そのロリ巨乳の言う事をいちいち深く考える必要はないぞ。主にその場のノリで物を言っているからな。
……よーし、開くぞ、開くぞ……。
ええい、ままよ!!
『手を上げろ!!』
「『ホアァ!?』」
ガチャガチャガチャン、と、扉を開けた瞬間居並ぶコア・ナイトの部隊から一斉に銃を向けられた。
我々を案内してくれたホモとロリコンと男装腐女子まで彼らに狙われてない? 信用低すぎでは?
とかなんとか言っている場合ではないな。
それだけモティエールくんの警備は厳重ということだろう。
現に、コア・ナイトたちが盾となって奥にいるはずのモティエールくんの姿が見えなくなっている。
「落ち着きたまえ。私だ、本物のティアナ・エンクラッドだ」
『『!?』』
かくかくしかじか。
まるまるうまうま。
地上で起きた出来事を説明し、レオン少年がこのエンドウルゴスに乗り込んだ事で私が起動したところまではなんとか理解してもらえた。
そして──。
「ティアナ博士。本当にあなただと言うのなら、姿を見せてください。本物ならばそこのモニターをハッキングする事ぐらい容易いはずです」
おお、久しぶりだなモティエールくん!!
任されよう、その程度ならば秒で終わるとも。
えっちらおっちら電子の海を漂い、指定されたモニターをハッキングして私のデータを入力し、投影。
器がないと外に出てこれないのが難点だなぁ。
〈これでいいのかね?〉
「こ、これは……」
「博士、これは間違いなく……」
『本当にティアナ博士でしたのね……』
『レオン、今そっちにハカセはいないの?』
『あ、うん。僕のモニターからは消えてるよ』
どよどよとどよめくギャラリー。
シェルター最奥部に設置されたモニターの中とはいえ、肉眼で私の姿を確認できた事で、ようやくレオン少年以外も本当に私がティアナ・エンクラッドその人であると確信できたらしい。
さて、肝心のモティエールくんは──。
「……は、かせ……ほんとうに、ほんとう?」
〈お、おお。本当に本当だとも。見たまえこのプリティーな肉体を。ぶっちぎりで世界一のこの美貌を!〉
おおおおおぅ、鬼のモティエールくんが泣いてるゥ!!
こうなる事は予め知識で「識って」いたとはいえ、実際に見ると誰お前と言わざるを得ない。
「はかせ……博士ぇぇぇ……!!」
〈……よしよし、よく頑張ったな。モティエールくん〉
『ぐすん……感動的ですわ……』
『ね。皆もらい泣きしてる』
『……無理もないさ。あのティアナ博士の後を継ぐだなんて、僕らじゃ想像も付かないほどのプレッシャーだったはずだ』
とりあえず雰囲気に合わせてやっているが、モニターに抱きついても私には触れないぞモティエールくん。
ついでに言うと涙でモニターが濡れてこっちから非常に見えにくいぞモティエールくん。
とりあえずさっさと話をしたいから泣き止んでくれないかモティエールくん。
この後、めちゃくちゃあやした。
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