第10話


 ごきげんよう、諸君。

 引き続きウルゴスちゃんこと私がお送りするぞ。


 なんとか時間を稼ぐ事に成功したレオン少年御一行は、私の操縦するエンドウルゴスの先導に従い、燃え盛る会場を黙々と歩いている。

 つまりレオン少年はただ機体に乗っているだけである。


 なんだかすごく雰囲気が重いが、まぁその原因は機体越しにでも分かるほどに負の波動を撒き散らしているネメハくんが大半と見て間違いないだろう。


 ニアモはそもそもレオン少年以外のメンタルケアなんぞ知ったこっちゃないので無関心であり、レオン少年はレオン少年で冷静になってみれば今の状況が意味不明すぎて混乱しているためそれどころではないし、そもそも彼とネメハくんはニアモを巡って不仲である。


 だが、どうやら幾分か落ち着いてきたようだな。



「あのぉ……これ、どこに向かってるんですか?」


「私が遺しておいたシェルターが世界各地にあってね。幸いにして、この街にも存在していたはずだ。恐らくモティエールくんはそこにいる」


「な、なるほど? モティエールくんって、あのエルティリーゼ・モティエール博士の事ですよね? ティアナ博士の後を継いで、コア・ナイトに関する新技術の開発をしている……」


「ほう、あの子がそんな事を。遺言はきちんと聞いてくれたようだな。安心したよ」


「遺言って……あっ、それよりあなたを二人に紹介しないと!」


「うむ? ああ、そうだったな。しかし、いいのかね? 片方は明らかに虫の居所が悪いようだが。ま、大方自分のライバルが急にオリジナル・セブンという力を得て、どうしようもない差をつけられた事に焦っている……といったところだろうが」


「えっ、オリジナル・セブン? えっ!?」



 なんだ、気付いてなかったのかこいつ。



「戦闘中だったものだから言っていなかったな。この機体は研究所の襲撃で行方不明になっていた最後のオリジナル・セブンだ。詳しい事はまた後で話すが」


「オリジナル・セブン……僕が、パイロットに……」


「勘違いするなよ。君はまだまだへっぽこだ」


「ですよねッ!!」



 そんなこんなをしている内に、地下シェルターが隠してあるポイントへと到達した。

 私の知識によれば、間違いなくモティエールくんはここにいる。


 一見して何も無いように思えるし、実際防衛上の問題から目印となる物も一切無いが、ここにあるという事を暗記していれば大丈夫というわけだ。



 ほぅら、開いた。

 私が居るから生体認証もバッチリなのだ。



「えっ、地面に穴が!?」


「行くぞ」



『ユークトリアの。これはなんですの?』


「こっちが聞きたいよ!!」



 わざわざ通信をオープン回線にして吠えるな少年。



『は?』


『喧嘩ダメ。とりあえずついてく』


『は、はぁ。ニアモさんがおっしゃるのでしたら……』



 負の波動を撒き散らしていたネメハくんもさすがに疑問が湧いて正気に戻ったらしく、自分たちを先導しているように見えるレオン少年に質問を浴びせるも、残念ながら少年はそれに答えられない。


 だって奴も分かってないんだからな。

 もしかしたらレオン少年は不思議ちゃん属性がついてしまったかもしれない。

 それはいかん。ニアモと被る。



 兎にも角にも入口を降り、シェルター内を歩いていく。



「静かな所だ……警備はいないのか……?」


「私が来たから作動していないだけだ。もしも侵入者が現れればきちんと出てくるさ。見たいかね?」


「い、いえ。遠慮しておきます」


「おや、そうか。それは残念だ」



 レオン少年が独り言をブツブツ呟くヤベー奴になってしまうので通信を再びオフにしているのだが、それが分かっているんだかいないんだか。

 さて、最奥部に居るだろうモティエールくんの元に「ティアナ博士が帰還した」という知らせが入っているはずだが……。



 おっ、来たな。

 今更だが、この地下シェルターはコア・ナイトも通れるように非常に広大な作りになっている。とはいえ、横に三機も並べば容易に通せんぼできる程度なので──。



『止まれ!! 何者だ!? さてはナイトメアかッ!!』


「わっ、わっ!? ち、違いますッ!!」


「やかましい。通信を切っているのに喚いても無意味だぞ」


「あっ、そ、そうか」



 奥から侵入者……つまり私たちを迎撃するためにコア・ナイトの三機小隊が現れた。

 データを照合して……やはり帝国の連中か。

 十中八九、死んだはずのティアナ博士が帰還したという知らせを怪しんだモティエールくんが差し向けてきたのだろう。


 とりあえずオープン回線に切り替え、と。



『レオン、どうする。やっちゃう?』


『どうするんですのユークトリアの!! この方々、機体からして恐らく帝国の精鋭ですわよ!?』


「いや、やっちゃわないよ!? なんでニアモはそんなに好戦的なのさ!!」



『な、なんだ……この声……まさか子供が乗っているのか……?』


『馬鹿野郎、この隠しシェルターにただの子供が迷い込むわけ無いだろう!!』


『侵入者に警告する!! すぐに両手を上げなさい! 戦意を見せるようなら容赦はしないぞ!!』



 おお、おお。

 レオン少年御一行も帝国の連中も混乱しておられる。


 ま、帝国は私の死後にセキュリティを念入りに強化したようだからなぁ。

 しかし侵入者たる我々が死んだはずの「ティアナ博士の生体データ」を使ってきた事はさすがに想定外だったという事だろう。



 世間ではティアナちゃん生存説とかもまことしやかに囁かれているが、瀕死になりながらも研究所から生還したモティエールくんを擁する帝国ならば、あの状況でティアナが生きているわけがないという事は把握しているからな。



 このまま放っておくと帝国との戦闘がおっぱじまりそうなので介入してやるか。



「戯け。私だ馬鹿者ども」



『え……』


『ティ、ティアナ博士!?』


『生きておられたのですかッ!?』



 コア・ナイトに乗っているので見えないが、恐らく目ん玉が飛び出る程に驚いているだろう帝国兵たち。



『えっ!? ちょっとどういう事ですのユークトリアの!!』


「だから僕もよく分からないんだって!! この機体に乗ったら何故かティアナ博士がモニターの中に居たんだよ!」


『はぁ!?』


『二人とも落ち着いて。おまんじゅう食べる?』


「ごめんニアモちょっと黙ってて今それどころじゃない!」


『……しょぼん……』



 オープン回線で喚き合うレオン少年とネメハくん。

 一人だけ冷静に饅頭を貪るニアモ。

 というかあれか、わざわざコクピットを開けて饅頭だけ手渡すのか?



『そんな……あの状況で博士が生きているはずが……!!』


「ふむ。そこの君、実はホモで同僚の尻を狙っているという秘密をバラされたいらしいな。おっと口が滑った」


『え』


『ホアァ!? ちょっ、何言って!?』


『お前マジか、マジか……』



「ドン引きしているが、そちらの君はロリコンだったな。精々警察のお世話にならないように気をつけたまえ」


『ホアァ!? なんで知って……!?』


『え』


『うわ、お前マジかよ……引くわ……』


『うるせえ! ホモに言われたくねェんだよ!!』




「これが……帝国の精鋭……」


『ホモとロリコンってなに?』


『ニアモさんは一生知らないままで良いのです』



 ふはは、私に知らない事などないのだ!

 分かったらさっさと道をあけたまえ!


 少年たちがちょっと、いやかなりガッカリした様子だが、なあに。

 この程度は未来のためのささやかな犠牲というものだろう。



 秘密を暴露されてメンタルブレイクされた帝国の精鋭たちと改めて交渉すると、快く案内役を買って出てくれた。

 ちなみにさっきから「え」としか言っていない男は、実は男ではなく男装した女で、そこの同僚二人をネタにした薄い本を描いている程度には腐ってなさるという秘密がある。



『きゃああ!? ちょっ、わた、げふん! 僕だけは大丈夫かなぁとか思ってたのにぃ!!』


『最後にエグいネタが飛んできたァ……』


『マジかよ、お前女だったのか……』



「これが……帝国の精鋭かぁ……」


『薄い本ってなに?』


『ニアモさんは知らなくて良い世界ですわ』


「その言い方だとエッセンバウアーさんは知って……」


『お黙りッ!!』


「アッハイ」




 ついでにバラしておくと、ネメハくんも腐女子である。

 と同時にガチレズでもあるという性癖のびっくり箱だ。



 いっそ清々しい程にすっとぼけているが、ニアモは全部分かってて言ってるんだよなぁ……。

 あっさり騙されている少年たちが不憫だ。


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