第9話



 ごきげんよう、諸君。

 そして一応はじめましてと言っておこう。


 行方不明を装って温存していた最後のオリジナル・セブン、エンドウルゴス。

 その中身というか、正体こそがこの私だ。

 ティアナちゃんと呼ぶがいい、と言いたいところだが例のごとくそれでは非常に紛らわしい事になるのでな。

 ウルゴスちゃんとでも覚えておくがいい。


 さてさて、ティアナ・ネットワークの計画に従い、エドラスを牽制しつつレオン少年をパイロットとして取り込んだわけなのだが……。

 ええい、はよ起動せんか。



「これは……本当にコア・ナイトなのか? なんだか他とはまるで雰囲気が違うような……」



 コクピットで呆然としていたかと思えば、呑気にそんな事を宣うレオン少年。

 スットコ野郎め、もういいわ!!



「馬鹿者、呆けていないでさっさと戦いたまえ!!」


「はい?」



 あまりにも行動が遅いので勝手に起動し、前天周モニターに「ティアナ・エンクラッド」の顔を映して少年を叱る。

 いや、はいじゃないが。


「ティ、ティアナ……エンクラッド博士……?」


「如何にも! だが説明は後だ! 今は敵を撃退する事だけを考えたまえ。でなければいくら私とて守りきれんぞ!」


「……! そ、そうだ。あいつを倒して、ニアモを守る!!」



 まあ気持ちは分からんでもない。

 よくわからんコア・ナイトが突然現れたかと思えばコクピットに導かれ、そこで死んだはずの偉人とご対面とあらば誰だって大なり小なり混乱はするだろう。

 だが今はそんな事を言っている場合ではないのだ。


 相手は腐っても首領が作り出した改造人間、ナンバーズが一人。

 しかも直に二人追加されると来た。


 フェルトちゃんが仕事を終えるまでの僅かな間だけ凌げばいい、と言えば簡単に思えるが、激怒しているエドラスを相手に気を抜けば一瞬でやられかねん。

 何せ、このエンドウルゴスはポテンシャルこそオリジナル・セブンでも随一だが、今は二重の封印が施されているため下位のナンバーズとギリギリで同程度の性能しかない。

 後日調整して少し性能を上げておくつもりではあるが。



「今から君の脳内にこのエンドウルゴスのデータを叩き込む! なんとかそれを使いこなして状況を打破してみせろ!」


「えっ!?」


「悪いが文句は受け付けん! 行くぞ!!」


「ぎょぇぱっ!?」



 これだこれ。

 何で封印なんかされているかと言うと、ひとつは本来のデータ全てを一度に叩き込むとレオン少年の頭がパーンしてしまうからだ。

 他にも理由があるとはいえ、絞りに絞った状態でもこれなのだから、つくづく凡人というのは面倒くさい生き物だよ。


 ウルゴスの中にある電子世界を漂いながら、現実世界で無様に白目を剥いて透明な液体を目や鼻から噴き出しているレオン少年を呆れ顔で眺め、しびれを切らして突っ込んできたエドラスが駆るアンジェロの攻撃を捌いておく。


 ここで私が自ら操縦を代行してエドラスを撃退するのは容易いが、それでは意味が無い。やろうと思えば撃退どころかここで撃破してエドラスを戦死させる事さえもできるがね。


 レオン少年にはもっと成長して、いずれは首領や神の軍勢に抗う人類の旗手となってもらわねばならない。

 こんなところで挫折してもらっては困るのだ。


『なん、なのよォ!? なんなのよォ、アンタはァ!? この、大人しくッ!! 殺されなさいよォ!!』


 ふうむ。

 オカマが荒ぶっておられる。


 大方、今現在こうして攻撃を容易く捌いているのがレオン少年の仕業だと誤解しているのだろう。

 そしてそれは背後にいるネメハくんも同様で、「わたくしたちも援護を……何故止めるのです、ニアモさん!!」と喚いておられる。


 一芝居頼むぞ、名女優。



『ネメハ、レオンの邪魔になる。それ、ダメ』


『……それはッ!! そう、なのですが……でもッ!!』


『でももへちまもない。レオンを信じる』


『く……ッ! わたくしに、もっと力があれば……』



 なんか闇堕ちしそうな事言ってらぁ。

 というかニアモもニアモでよく心にもない事を平然とした顔で言えるものだ。

 我ながらなかなかに腹黒いロリ巨乳である。


 ま、そういう風に演じるよう決めたのは我々ティアナちゃんズなんだがね。


 ちなみにニアモがネメハくんを止めている理由だが、彼女が言う通りに邪魔にしかならないからだ。

 今のエドラスは破壊衝動がレオン少年に対して集中している状態なので背後のネメハくんとニアモには見向きもしていないが、そこに水を差されれば一転してネメハくんを殺しにかかるだろう。


 ニアモはティアナちゃんズの一員なのでその事を当然よく知っており、だからこその制止というわけだ。

 何せエドラスをああいう性格に改造したのは我々ティアナちゃんズなのだから。



 さて、そろそろ再起動する頃か。



「う、うぅ、頭が……」


「ようやくお目覚めかね。そら、操縦を任せるぞ」


「わっ、そんな急に!?」


「甘えるな。私は所詮このコア・ナイトに宿るただの電子生命体に過ぎん。それを生かすも殺すも君次第だよ、レオン少年」


「電子、生命体……?」


「来るぞ! エネルギーブレードを構えろ!!」


「は、はいっ!!」



 死人のようになっていたレオン少年が覚醒し、しかし何やら戯けた事を口走っていたので一喝。

 そこで次なる疑問が浮上した様子の彼だが、激おこエドラスがそれを待ってはくれない。


 一見して武装がないように思えるウルゴスの右腕から青白い光が剣のように生え、その根元に左手を添えて構えるレオン少年。



「右上からの振り下ろしだ! こちらから見てだぞ!」


「了解ですッ!!」


『くたばりなさいィ!!』



 エドラスのアンジェロがエネルギーブレードを振り下ろし、しかしそれを見切っていた私が指示を出し迎撃させる。

 現時点ではレオン少年個人がパイロットとしてエドラスに勝っている点はひとつも無い。

 故に、彼がまだまだ弱い今のうちはこれでいいのだ。

 経験を積み、私の助言が必要無くなったと判断すればその時は大人しく縁の下にでも引っ込むさ。



「かち上げろ!!」


「う、おおォォォォオォ!!」


『な、にィッ!?』



 ガキィン、と捌かれ、大きく隙を晒すアンジェロ・ゼクス。

 エネルギーブレードはああ見えて魔力的な云々による物理干渉が起きるため、鍔迫り合いなんかもできちゃうぞ。


 しかしこれで油断するのはケツが青い。



「よし──!」


「ヨシじゃない! 油断するな!!」


「えっ」


『甘いのよォ、ガキがァァァ!!』



 大きくかち上げられた腕を背後に回し、もう片方の腕にエネルギーブレードを渡しての奇襲。

 所謂古武術の一つ、背車刀をコア・ナイトで再現した技をエドラスは繰り出してきた。

 ちなみにナンバーズのコア・ナイトは殆どが天使をモチーフにした翼を持つ機体なので、注意しないと思わぬところで引っかかってしまう事があるという難点を持つ。



「蹴ろ!!」


「は、はいッ!!」


『ぬぐゥ!?』



 咄嗟に指示を出し、間一髪の所で蹴りを入れて距離をとる事でなんとか回避。

 さすがに一撃で落ちるほど脆くはないが、それでも痛いのは嫌だからな。避けるに越したことはない。



 近接戦闘はなかなかハラハラするが、かと言って背後に守るべき対象が居る以上は一旦離れて銃撃戦、というわけにもいかんしな。



『この、しぶといわねェ!!』


「無理に当てようとしなくていい、とにかく避けろ!! そして冷静に相手のクセを見抜け!」


「相手の、クセを……」



 激突し、私が指示を出して攻撃を捌き、少し距離をとる。

 何度も何度もそれを繰り返し、段々とレオン少年がエドラスの動きに慣れてきたところに──。



『なぁにを手こずってるのよたかが学生ごときに! このクソオカマ!! これ以上閣下に無様な姿を見せないでよね!』


『よォエドラスゥ!! 苦戦してんなら俺様が代わってやろうかァ!?』


『──アンタたち……が来たって事は……』




「そんな、援軍だっていうのか……!? 三対一なんてさすがに捌くのは無理だぞ、僕には……!」


「ちぃ、他に回っていた連中がこちらに来たか」



 ナンバーズ・エイト、メニーニャ・ラバーラック。

 ナンバーズ・ナイン、オルテゴ・ジード。


 ナイトメアの“ナンバーズ”を背負う二人が乗る二機のコア・ナイトが、首領の指示を受けて増援として現れた。

 背後のニアモ機は既に関節がイカれていて戦闘はとてもじゃないが不可能、ネメハ機もダメージが重なっていて満身創痍の上、実力不足でナンバーズを相手にするのはそもそも無謀。


 これで詰み、だっただろう。

 ナイトメアが私とは無関係の、ただのテロ組織だったのならばな。

 だがしかし、実際はこの私の同一存在がトップを務めているので詰むことはまぁあまり無い。


 少なくとも今回はこれでミッションクリアだ。




『え……は、はっ!! すぐに!!』


『チッ、時間切れか。おら帰んぞ、エドラス』


『クソ、クソォ!! このアタシが、たかだか三匹のガキどもを相手に、こんな……!! アンタたち、今回は見逃してあげるわ!! 運が良かったわネェ!!』


 予定通りフェルトちゃんがエドラスのターゲットを代わりに始末し終えたのだろう。

 奴らは“誰か”と通信を交わし──まぁ首領わたしなのだが──まるで嘘のように呆気なく去っていった。


 


「なんだ……? 急に、帰って行ったぞ……」


「目的は達した、という事だろう。ここでの戦闘なんぞ奴らにとってはついでに過ぎん」


「……そうか、そうですよね……くそっ……」


「さて、では行くとするか。レオン少年」


「はい? えっ、どこにです?」


「無論、モティエールくんの元にだ。十中八九彼女も来ているだろうからな。そこで私について説明してやる」


「あっ……そ、そうか。分かりました。えっと、ニアモたちは……」


「心配せずともいい、彼女たちも一緒だとも。ついてきたまえ。機体はこちらで動かす」


「えっ、あっ、ニアモ!! エッセンバウアーさん!! ぼ、僕についてきて!!」


『わかった』


『……ええ』



 これで主人公としてのレオン少年のファーストミッションはクリア、だな。

 お次はブリーフィングと言ったところか……。


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