第6話




 ごきげんよう、諸君。

 前回に引き続き、ロリ巨乳な私ことニアモ・エーベルシュタインが若人たちに紛れてお送りするぞ。


 相変わらず理不尽な目に遭っているレオンくんや、嫉妬だったりライバルとしての対抗心だったりする複雑な乙女心から彼に襲いかかるネメハくんと一緒に学生生活をエンジョイしていた私だが、今は非常に緊迫した雰囲気の中、とうの昔に廃棄された街を訪れている。


 なんでそんな所にいるのかと言うと、例の国際大会が行われるのがこの地だからだな。




 実はこの世界には一応、大小様々な国々をまとめる立場の国際連盟という組織が存在するのだが、それなりには機能しているものの大国からは事を荒立てない程度に無視されているというのが実情だ。

 具体的には、国際連盟が定めた「新たなコア・ナイトを開発した際にはそのスペックを開示しなければならない」という義務を、実際の数値とは程遠いものに偽ったり、機体名や武装の名前を開示するだけに留めたりとか。


 連盟も一応独自の戦力を保有してはいるのだが、大国のそれには到底及ばないため、ヘタにつついて戦争などが起きてはたまらないとばかりに下手に出るのだ。いざ事が起きれば潰されるのは間違いなく連盟の方だからな。

 ティアナ・エンクラッドとしての私がいたテレブラント帝国やノエストラ王国も、そんな国際連盟に名を連ねる大国である。



 舐められ気味でお疲れの国際連盟だが、しかし非常に高い注目度を誇る大会を開催してもいる。彼らがドヤ顔できる数少ないその行事こそが、今回私たちが参加するパイロット候補生の国際大会なのだ。


 世界各地にある士官学校の生徒たちが集まるという都合上、世界中の国々が参加している国際連盟が主催するのが一番無難と言えるわけで、これは大国の支配者たちも認めている。



 まあそれほど重要な行事が、悲運にもナイトメアの標的にされてしまうのだがな。

 後日世間からの厳しい声に晒されるだろう連盟のお偉いさん方には強く生きて欲しい。



 さてさて、そんなこんなでいよいよその国際大会が始まるわけだが。

 そもそもこれを勝ち進んだ生徒側にどんなメリットがあるのかと言えば、母国の軍隊に登用された際、待遇のいいエース部隊に配属されたり、新兵器を優先的に回してもらったりできるようになるというのが大きいな。


 更に功績を上げて現場でも実力を証明できれば、他の人間が乗ることを一切考慮していない高性能なワンオフ機……要するに専用機を開発してもらえる事もある。小国ではそうもいかんが。

 貴族のボンボンにとっては実家の名を上げるのにまたとない機会だから気合を入れて参加するし、そう多くはないが存在する事はする一般家庭の生徒にとっては莫大な額の給料を享受するための最大の近道だ。

 そりゃあどの生徒も奮起するというものだろう。


 金や家の問題を差し引いても、自分の優秀さを広く知らしめる事ができれば、将来を約束されたも同然だしな。



 私の隣で深呼吸しているレオンくんや、鋭い目でライバルとなりうる実力者たちを見定めているネメハくんも、自らの……そして家族の将来をかけて臨んでいる。

 呑気にファストフードを両手に抱えて貪っているようなのは私ぐらいだろう。



「……ニアモ、よくそんなに食べられるね……」


「ん。おいしい」


「僕なんか緊張して緊張して、全然食べ物が喉を通らないっていうのに」


「今からその有様では途中でへばりますわよ。ニアモさんのリラックス具合を見習いなさいな」


「そうだそうだ」


「いやァ、少しリラックスしすぎじゃないかなって。ほら、向こうの人が睨んでるよ。候補生かな?」


「ん?」



 こう見えて私は消化機能を改造手術で拡張しているので、めちゃくちゃ大食いである。ざっくり計算して大人の男の十倍ぐらいは食べる。別に食べなくても死にやしないが、それとこれとは話が別である。

 その分食費も凄まじいのだが、我が家は大貴族。この程度の出費なぞあってないようなものだ。

 身体の小ささに見合わない私の大食いっぷりを初めて目撃した際に、レオンくんが「君の身体はファンタジーだね……」と呟いてネメハくんにスネを蹴られていたのが懐かしい。



 と、レオンくんが示す先を見て、危うく喉を詰まらせかけた。

 何故って、そこにいたのが候補生なんぞではなく、あちらの私で見慣れたテロリストだったからだ。



「レオン、あれ違う」


「え?」


「たしかに。あんな服はどこの士官学校でも制服として扱ってはいませんわ。大会を見に来られた一般の方でしょう。失礼ですけど、学生にしては老けてますし」


「そうなの? それにしては、なんか雰囲気が只者じゃないというか……どこかの軍の関係者だったりするのかな」


「あまりじろじろ見ない方がいい」


「ニアモさんの言う通りですわ、ユークトリアの。絡まれても助けたりしませんからね」


「うっ、ごめん」



 レオンくんはなかなか鋭い。

 只者じゃないという彼の推察はそのものズバリである。


 なんてったって、件の人物は世を騒がす武装組織ナイトメアの幹部……ナンバーズの一人だからな。

 首領わたしは指示を出していないし、そもそも今回の一件はフェルトちゃんに任せてあるので、自動的に奴がここにいるのはフェルトちゃんの指示によるものだ。


 若い実力者を洗脳して手駒にするためか?

 まさか観光というわけでもあるまい。



 ナンバーズ・シックス、エドラス・ラガーマン。

 気に入った人間ならば男女を問わず食っちまうオカマの男性で、それでいて首領わたしによって拡張された強い破壊衝動を抱く危険人物だ。

 彼が従うのはナイトメアのトップである首領わたしとフェルトちゃんの二人のみ。他のナンバーズとは一応協力はするが決して馴れ合いはしない、という面倒な奴でもある。



 よりによってエドラスを連れてきたのか、フェルトちゃん。

 こりゃあ……半端じゃない数の死者が出るな。



 他のナンバーズは誰が来ているのか、念の為「ティアナ・エンクラッドの共有意識ネットワーク」……略してティアナ・ネットワークに接続して聞いてみる。



(もしもし、こちらニアモ。ナンバーズって誰が来てる?)


(もしもし、こちら首領ドン。シックス、エイト、ナインの三人だ。万が一の場合はフェルトちゃんも出る)


(マジかよ。接続終わり)



 頭を抱えたくなった。

 リアルタイムに刺激を楽しみたいから、という理由でこの身体で閲覧できる未来の知識を制限したのが裏目に出たなあ。

 あっ、気付いたらエドラスがどっか消えてる。


 ナンバーズが三人来ているというのはまだ全然予想の範囲内だが、面子が悪い。

 やるなら徹底的にだ、って奴か。

 揃いも揃ってヒャッハー属性の連中しかいねえ。


 しかも万が一の場合にはフェルトちゃんも出てくるって、完全に詰むやつじゃないか。いや、万が一にもナンバーズを撃退なんて事は起きないだろうが。



 シックスは先述の通り両刀使いのオカマ。

 エイトは広域洗脳兵器使いの鬼畜ロリ。

 ナインは積み上げたものぶっ壊してく系脳筋ゴリラ。



 ……色物しかいねえ……ッ!

 いやいやそんな事より問題は、これでもかという程に濃厚な惨劇の予感しかしないって事だ。

 下手をしなくてもネメハくんあたりがナンバーズの誰かに殺される可能性が非常に高い。


 レオンくんに関しては首領に話を通してあるので、うっかり殺されそうになっても鶴の一声で止まってくれるだろうから心配はいらない。


 ネメハくんもなかなか才能があるから、こんなところで潰すのは少し惜しい。

 仕方ないから手を打っておくか……。



 ティアナ・ネットワークに接続し、私の一人に依頼。



(もしもし、こちらニアモ。ネメハ・エッセンバウアーをヒャッハーどもの魔の手から守ってクレメンス。ついでに若手があまり失われないように注意してやってくれ)


(こちらヒーロー。了解した。計画通り私のお披露目といこう)


(なにそれきいてない)


(以上、接続終わり)


(ちょっ)



 けいかくどおり……??

 えっ、ニアモちゃん何も聞いてませんよ?


 おのれ、首領ドン・ナイトメア。

 敵役だからって私の扱いが雑だぞぅ!




 ……まあ、置いてけぼりなのが少し気にはなるが私の事だ。そう悪いことにはなるまい。

 なんとなくだが今回のシナリオも読めてきたしな。

 私がすべきは、ヒャッハーどもの投下により必要以上の被害が出ないように立ち回る事だ。


 具体的には、有力なパイロット候補生たちを守ってやればいい。

 それ以外? 知らん。奴らは私の管轄外だ。


 特に、ご来賓のきたない貴族なんかは生かしていても使い道がそれほどない。

 きれいなのはきちんと生かすが。


 どうせ首領ドン・ナイトメアがヒャッハーどもの投下を許して派手な惨劇を起こそうとしているのも、そういった人類の存続に不要なウジ虫を排除するためだろうさ。

 何せ別のとはいえ私の考える事だ。私にはよく分かる。




 さぁて、始めるとしようか。


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