第5話
ごきげんよう、諸君。
今回はいつもの
尚、見た目こそロリロリしくアンバランスな巨乳だが、対外的にはこれでも十六歳という事になっている。
この世界では大半の国が十五歳で成人を迎えるので、一応こちらの私も成人している事になるわけだな。
ナイトメアの首領たる私とは違い、この私は表社会で生活している身だ。当然、血の繋がらない家族もいるし本名とは別の名前もある。
ニアモ・エーベルシュタイン。
それがこの私の名だ。一応、覚えておいて欲しい。
そんなこんなで通い慣れた士官学校への通学路をテクテクと歩いていると、一台のフロートバイク──車輪が無く、反重力装置によって僅かに浮いて地面の少し上を飛ぶ乗り物──が停車した。
「やあ、ニアモ。おはよう。乗っていくかい?」
「ん。おはよ。乗ってく」
「了解っ」
爽やかな笑みと共に朝の挨拶をしてきた赤髪の少年。
こいつこそが、ナイトメアの首領に私が売り込んだ才能豊かな少年その人だ。
レオン・ユークトリア。
そう裕福ではないが一応は弱小貴族の生まれで、父親が奮起して方々に手を回した甲斐あって、なんとか士官学校に通えるようになった苦学生である。
貴族とはいえ彼の実家にほとんど力は無く、それでいて才能に恵まれ非常に優秀な成績を叩き出している事から醜い嫉妬を買っている、という意味でも苦学生だな。
対して私の実家という事になっているエーベルシュタイン家は、この国を治める聖王家との濃い繋がりがある程の名門貴族であり、そんな私とレオンくんが仲良しであるという点も貴族のボンボン共は気に食わないらしい。
なんとも幼稚な事だね。
さて、我々がどうやって知り合ったのかというとだが。
答えは簡単。エーベルシュタイン家と聖王家の連中を全て洗脳して潜入する事に成功した私の耳にある日、とても優秀な少年がいるとの情報が飛び込んできたのだ。
その少年こそがレオンくんであり、興味を引かれた私が裏で手を回し、自らを暴漢に襲わせるように仕向けてレオンくんに助けさせる事で彼に「名門エーベルシュタイン家の息女との交友を許せる程の立派な功績」を上げさせたのさ。
それ以来、私は偶然を装ってレオンくんと遭遇するように行動し、ごく自然な形で友好関係を築き上げてきたというわけだな。
それが功を奏し、今ではエーベルシュタインのママンも私とレオンくんの関係に興味津々である。
パパン? 娘はやらんぞ、とよくレオンくんを睨んではママンにシバかれているよ。実家にも結構頻繁に招いているのでな。
実は今日の遭遇も、レオンくんが毎日この道を通ると知った上で、彼の目に留まるようにのんびりと歩いていたからこそのものだ。
ま、レオンくんの両親も私との交友には深い興味を示しているようなので、関係の構築は至って順調と言えるだろう。
上手くいけば弱小貴族が名門貴族と婚姻関係を結べるかもしれないのだから、当たり前だがね。
「ニアモ、いよいよ国際大会が近いね。正直言って、僕なんかが上手くやれるのか心配になってくるよ」
「大丈夫。レオンは強い。きっと負けない」
「……ありがとう。今日の放課後、練習に付き合ってくれないか?」
「いいよ」
「よかった。君は多忙だから、断られるかもしれないと冷や冷やしていたんだ」
「いくじなし」
「うぐっ……はは、返す言葉もない……」
ふむ。
レオンくんのテンションが爆上がりしているのを感じる。
その証拠に、ひょこりと覗くとにやけ面を隠せていない。
慌てて顔を逸らす少年だが、もう遅い。
ティアナちゃん……もとい、ニアモちゃんにかかれば純情な少年を誑かすなど朝飯前なのだ。
それにしても、惚れた女を前にして「僕なんか」と自分を卑下するのは良くないぞ。
こっそりニアモポイントを減点しておく。
私が「いーじゃん」と思う度、一ポイント!
一億ポイント溜まったら、子作りしてやらんでもない。
十中八九その前にナイトメアの襲撃が来るが。
あちらのフェルトちゃんが随分と気合を入れていたようだから、相当本格的な戦力を投入してくる事は間違いない。
私が死ぬのはまだ早いし、完全に育ちきる前のレオンくんを失うのも少し惜しい。
どちらかがうっかり殺されてしまわないように、しっかりとフォローしてやらねばなるまいな。
さすがにフェルトちゃんが出陣してきたら詰むが……。
そこらへんは、大丈夫だよな。きっと。
頼むぞ
「到着っと」
「ありがと」
「どういたしまして!」
そうこうしているうちに士官学校に到着した。
フロートバイクを駐輪場に停め、他のモブ学生たちに紛れてレオンくんと二人で歩いていくと、やがてよく知る顔が見えてきた。
「やあ、おはよう」
「おはよ」
私たちの声に反応して振り向いたのは──。
「あら、ニアモさんにユークトリアの。おはようございますわ。相変わらず仲がよろしいですわね」
「君は相変わらず僕をきちんと呼んでくれないんだね……」
「呼んだではありませんか」
とってもボリューミーなツインドリルお嬢様であった。
彼女の名はネメハ。
ネメハ・エッセンバウアー。
私の幼馴染みという記憶を刷り込んでおいた侯爵家のご令嬢であり、かつて私に近付く害虫とみなしたレオンくんに対してコア・ナイトを用いた決闘を申し込み、見事返り討ちにあった愉快な少女である。
以来レオンくんとは喧嘩友達のような関係が続いており、基本的には温厚な性格をしているレオンくんは彼女の事がほんの少しばかり苦手なのだ。
「ニアモさん。今日の放課後、国際大会に備えて一緒に練習でもいたしませんこと?」
おっと。
残念だが少し遅かったな。
ふるふると首を振ってレオンくんを指さしておく。
「先約」
「……ユークトリアの。そんなに相手が欲しいならわたくしが喜んでお受けいたしますわよ?」
「え、遠慮しておくよ……」
「お受けいたしますわよ?」
「いや、だから──」
「受けなさい」
「あっはい」
そういうことになった。
さもありなん。にっこりと笑みを浮かべながらも威圧感を満開にしているネメハくんの姿は後ろから見てもなかなかにバケモノだったものね。
「ごめんね、レオン」
「ど、どうしてニアモさんが謝るんですの!?」
「いや、こちらこそごめん。ついでと言ってはなんだけど、やっぱり見ていって欲しいな。それで悪いところがあったら指摘してくれると助かる」
「いいよ」
「無視するなですの~!!」
「ぐえぇっ!? エッセンバウアーさん、首! 首が……! ちょっ、ギブギブギブ!!」
「ネメハ、めっ」
「うっ……はいですの……」
がおー!! とレオンくんに襲いかかり、令嬢らしからぬ猛々しい表情を浮かべながら彼の首を締めるネメハくんだったが、私に叱られると嘘のようにしょんぼりし、パッと手を離した。
その隅っこでぜぇはぁと息を整えるレオンくん。
いつもこんな感じだし、苦手に思うのも当たり前だな。
ただし、ネメハくんも私に負けず劣らずの巨乳なのでガッツリと胸が当たっており、周囲の男どもは哀れなレオンくんを視線で射殺さんばかりである。
遠目にはイチャついているように見えなくもないからねえ。
これまでのやり取りで粗方分かったかと思うが、ネメハくんと私は男子たちの間で人気が高く、真ん中に挟まるレオンくんに対して嫉妬の炎を燃やしている。
これも彼が恨まれる要因なのだろうな。哀れにも。
ついでに言うと、侯爵令嬢らしからぬアホにしか見えないネメハくんだが、この士官学校に通うパイロット候補生の中では群を抜いてコア・ナイトの扱いが上手い。
具体的に言うと、全校生徒の中での序列は既に二位である。
三位がレオンくんで、一位は二人を大きく引き離しての私という形になっている。
我々はまだ一年生なのだが、近日行われるパイロット候補生の国際大会に出場する者を決めるため、つい先日校内最強を決める大会が開かれたからな。
そこでの順位がまんまこれというわけだ。
曲がりなりにもコア・ナイトの生みの親である私が素人には負けられないと奮起した結果、決勝戦で当たったネメハくんを瞬殺してしまったのは反省すべきだなぁ。
少々大人気無かったと認めるほかない。
ちなみに、使用された機体は様々なタイプの量産機を学校側が用意し、生徒がそれを選択するという形になっていた。
ネメハくんが使用したのは機動性を重視した射撃型。
レオンくんが使用したのは装甲を重視した銃撃戦もできる近接寄りの汎用型。
そして私が使用したのは、現在この世界で最も多く採用されている「ザ・量産機」。
以前ナイトメアが起こしたノエストラ王国のミーナセリス姫誘拐事件の際にも居た、カイトアズールである。
いかにもやられメカなあの子とて、コア・ナイトを知り尽くした私にかかればたちまち高性能機に早変わりだ。
もちろん改造なんてしていないぞ?
ただ、言っただろう。コア・ナイトはパイロットが自身にかけた魔法の効果をも反映すると。
それを利用し、カイトアズールのポテンシャルを正真正銘、理論的限界値まで引き上げてやっただけの事だよ。
どやっ!!
……まあ、大会が終わった後の検査で、私が使用したカイトアズールは修復不可能な程のダメージを関節に負っている事が判明してしまったのだが。
そりゃあそうなるよなぁ……と猛省したのは記憶に新しい。
私が直接手がけたオリジナル・セブンなら全然大丈夫だったはずだが、カイトアズールだもんなぁ。
そういえば言っていなかったが、コア・ナイトのパイロットとしての私は、表向きの「世界最強」であるエンクラッド家の兄者をも上回る実力を持っている。
文字通りコア・ナイトの事は知り尽くしているからな。
尚、放課後行われた練習という名の決闘は、私が見ている前でまた無様な姿を晒すわけにはいかないと奮起したのか、はたまたリベンジがしたかったのか。
レオンくんが見事に辛勝し、負けたネメハくんは大層悔しがっていた事を明かしておこう。
うむうむ。
良きライバル関係だ。
色々と手を回しておいてよかったな。
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