第838話 集落の異変(12)
「――何!?」
次々と森の中へ吹き飛んでいく死鬼を見て驚く菊池長老。
そんな長老に向けて
「この島の実態と何が起きているのか、それを話してはもらえませんか? 悪いようにはしませんので」
「ふっ――。甘いな、お主は」
菊池は、そう呟くと笑みを浮かべたあと体が膨れ上がっていく。
「これは……」
純也の前で、体が風船のように膨れ上がっていく菊池の体。
元々の体躯は日本人の昭和の平均男性と遜色ないほどであったが、老人だった体は身長が3メートル、筋肉隆々な体へと変貌を遂げる。
さらに体は赤黒く染まっていく。
「ガアアアアアアアアアア」
菊池は声にならない声を上げたあと、純也の目の前で体中から赤黒い血を流す死鬼へと変貌を遂げた。
「主よ。やつは何者かに支配されているようだ」
「ああ。だろうな」
歯軋りしたあと、純也に向けて振り下ろされてくる巨大な腕。
成人男性であるのなら一撃で肉塊に出来るほどの威力を持つ剛腕を純也は霊力で強化した腕で――、右腕一本で受け止める。
「ガア?」
「せめて魂は解放する」
純也は、右手で振り下ろされた剛腕を受け止めながら左手を化け物と化した菊池の胸元へと向けると――、
「霊気砲」
手のひらに集めた霊力を一点集中したあと、固めた霊力を高速で打ち出す。
それにより、胸を打ち抜かれた1トン近い菊池の体は空中を舞い上がり地面へと倒れ伏した。
「身体強化と霊力の練り方が格段に上がっておるな。主よ」
「……」
前鬼の問いかけに無言で立ち尽くしたままの純也は唇を噛みしめる。
「それは、すでに汚れ切った霊体であり生きた人間ではない」
主が気を病んでいると思った前鬼は、自身の体から燃え上がる灼熱する刀を作り出し迫ってくる死鬼たちを切り伏せる。
灼刀は、死鬼の再生すら許さず体を切り口から焼き尽くし消し炭にしていく。
「分かっている――。分かっているけど……」
「割り切ることは出来ないと言ったところか」
死鬼たちを殲滅した前鬼は灼刀を消したあと主である純也を見る。
「なあ、前鬼」
「何だ? 主よ」
「優斗は、生きてる人間も平気で殺しているんだよな?」
「そうであるな」
「あいつは、どういう経緯でそうなったんだろうな。俺は、生きてはいないと理解していてわかっているのに、それでも会話をすることが出来る既に死んだ者を浄化という体を取っても割り切れないのに……」
「……」
「分かっているんだ」
霊力に打ち抜かれた菊池の体は崩壊し、吹いた風により他の死鬼と同じようにして風に運ばれていく。
「――違う、分かっていたつもりになっていただけだった」
純也は、何とも言えない表情で自分の左腕を右手で掴む。
「こんなにきついなんて思わなかった。住良木さんに戦い方は教わったし知識も霊力や呪力の使い方も教えてもらったし、覚悟もしていた。でも――」
「そういえば主は他人の存在を消したのは初めてであったか」
「……」
その前鬼の問いかけに純也は無言で肯定する。
「戦いに身を置くという事は――」
そう前鬼は口にする。
「他者の命を奪うということだ。それを理解することが、霊能者としても陰陽師としても必要なことだ」
「……」
「とくに霊能者は人の命や存在に関わることなのだからな。だが、主は、友である桂木優斗を救おうと決意をしたのであろう。ならば、生半可な覚悟ではアヤツには届かない。その事は――」
「わかっている! ――でも!」
「ここは戦場であるぞ? 主」
「――ッ!」
「まずは、操られた人々を――、操った非人道的な連中へ鉄槌を下すこと。そして、現状起きてることを把握し収束させることこそが力を持つ者が行うことであろう?」
「分かった……」
純也は歯軋りをしたあと、炭鉱入り口へと向き直る。
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