第839話 集落の異変(13)
「――ならば、まずは霊糸が炭鉱から続いているのを見て何があったのかを調べる必要があるであろうな? 主」
「そうだな。後鬼」
そう式神の名を呼んだ純也の言葉に応じて氷雪の竜巻が巻き起こり、氷鬼である後鬼が姿を顕現させた。
「話は聞いていたか?」
そう純也は、後鬼に語り掛ける。
不機嫌そうな表情をしている主であり契約者である純也を見て後鬼は、
「もちろん。顕現していないだけで主の傍に控えている」
「そうだったな」
「主よ。式神を2体顕現させることは、いまの主の呪力を持ってたとしても、それなりの負担がかかる事は存じているかと思うが」
「分かっている」
「――では、我は顕現を解いても?」
「いや、島の北端に係留してあった船を調べてきてくれ」
「距離が離れれば、それだけの呪力が必要になるが良いのか?」
「ああ。少しでも早く事態を調査して収束させたい。そのためにも人手は多くあった方がいい」
「ふむ。了解した」
上空へと舞い上がった後鬼は、「では、行ってくる」と、島の北側へと向けて飛び去る。
「前鬼、それではいこう」
「うむ。それにしても、主が後鬼に調査を任せるとは思わなかったぞ」
「どうしてだ?」
「主は、超常的なことに対して忌避感を抱いてる帰来があるからな」
「……お、おう」
「まぁ、主の友人が人間離れした力を有していて、それを主が嫌っていて何とかしようと考えているのだから我らを深層心理の中で好ましく思っていないのは理解している。だからこそ、普段は我ら式神を虚数空間に置いているのであろう?」
「そういうつもりはないんだが……」
「主が自覚していないだけで、そう我らは考えておる」
「そうか……(そうなると、今の俺は、精神的にかなり追い詰められているってことか……。――いや、その可能性は……)」
純也は頭を振る。
「どっちにしても今は余計なことを考えないようにしよう」
「――で、指針は決まったのか? 主」
「ああ。まずは炭坑内で何があったのかを調べる必要がある。それで原因の何かを少しでも掴めればいいんだが……」
「そう言えば、陰陽庁から仕事を受けた時に、この島についての詳細レポートを渡されて目を通していたな? 主よ」
「たしか陰陽庁から仕事を受ける際に見たレポートには、この島――、神堕ち島について昭和初期から異変が起きて収集がつかなくなったと。その異変を何とかしようと陰陽庁が動いたけど、結局は対処が出来なくなって島を結界で封鎖したって。だけど、島民が生き残っているとは――」
「あれは生き残っていると言っていいのかは甚だ疑問ではあるがな」
「それを言ったら、俺はなんて返していいのか分からないんだが――」
前鬼が灯りを作り出していた。
その灯りを頼りに炭鉱の中を歩く前鬼と純也。
そして純也の目の前に、地下の炭鉱へと通じるエレベーターが姿を現す。
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