第836話 集落の異変(10)
純也を乗せた前鬼は島の上空へと上がっていく。
その最中で、島の全体が一望できる場所まで浮遊したところで、「主殿、これ以上は結界で上空へは上がれないようだ」と、前鬼は口にする。
「そうなのか?」
純也は、前鬼の言葉を疑問に持ちながらも手を上へと上げる。
「指先に何か固い物が当たるな」
「うむ。それが結界と言うモノであろうな」
「結界か……。つまり、この結界を作っている大元というか元凶が、この島にあるってことだよな?」
「そうなるが――」
「そうか。――ん?」
島全体が見えるようになった上空。
そこで純也が眉を顰める。
「どうかしたか? 主よ」
「あれって、どう思う?」
純也が指さした方角――、風祭を乗せてきた海上警備隊の船が接岸している桟橋とは島を挟んで反対側。
そこには、2隻のクルーザーが接岸されていた。
「ふむ。外から来たと考えるのが吉であろうな」
「だよな」
「それよりも、随分と遠視眼を扱う術も長けてきたな」
「まぁ、身体強化の延長みたいなモノだからな」
前鬼の問いかけに純也は言葉を返すと共に、純也はしばらく思考したあと、
「前鬼」
「わかったが、岩本を探すことはせずとも良いのか?」
「そうだな。先に、岩本警視正を探す必要があるよな……」
「うむ。そのために、霊体が岩本の名を口にしていたことを、あの者には伝えなかったのだろう? 何か原因がありそうだと考えて」
「まぁ、警察ってのを俺は基本的に俺は信用してないからな。都にも酷い事を言ったからな」
「お上に問題があるのは昔からであるからな。不信感があるようなら、独自に動くことも必要であろうな」
「ああ。それに優斗が静岡県警を含めた地方県警とゴタゴタを起こしたってのは、住良木さんから聞いているからな」
「うむ。――では、どうする?」
「まずは、岩本警視正とヤクザたちがどのような繋がりがあるのかを問いただそうと思う。場合によっては、優斗を守るための布石になりそうだし」
「布石か……。桂木優斗には、そのようなモノは必要ないと思うが」
「無くても、無いよりはあった方がいい」
「そうであるか。――ならば……、まずはアレだな」
島の一角――、鉱山入り口を指さす前鬼。
その指先にはスーツを着た一人の男と、昭和初期の服装をした老人である菊池村長が相対する光景があった。
――その頃、岩本警視正はトランシーバーを何度も操作し反応が無い事に内心、苛立ちを募らせていた。
「どうかしましたか? 岩本さん」
「――いや、何でも――」
どう言葉を返していいのか分からず地団駄を踏む岩本警視正。
「(馬鹿な――、そろそろ襲撃の結果報告が上がってきてもいい頃合いだ。それに銃声も聞こえた。それなのに、どうして報告が一切上がってこないのだ!)」
「何かありましたかな?」
菊池村長は、笑みを浮かべながら再度、岩本警視正に確認を取るかのように話しかける。
「――いや」
「そうですか……。てっきりお仲間のことが気になったかと心配していたのですが……」
「風祭警視のことか?」
「――いえいえ。粗野で粗暴で奪うことしかしない――、そんな方たちのことですよ」
その言葉に岩本警視正の眉がつり上がる。
「何を言っている?」
「それはですね――」
そう菊池村長が言葉を口にしたところで、二人から少し離れた茂みの中から令和の服装をした男達が姿を現す。
その数は20人近く。
そして、その誰もが体中から血を流していた。
「――な、なんだ……これは……」
何が起きたのか分からないと言った様子で岩本警視正は声を上げた。
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