第835話 集落の異変(9)

「……ですが、貴方は民間人であって――」

「今は、そんなことを言っていられる状況ではないのでは?」


 そう純也は言葉を返す。

 そして海の方角――、桟橋の方向へと視線を向けた。

 それに吊られる様にして竜道寺も視線を海の方へと向けるが何か変わったことがあるような感じはしない。


「何か?」

「いえ。正直言って海で出会った怪物だけでも現在の警察の装備では対抗するのは難しいと思うので、竜道寺さんは警察関係者と民間人の護衛をした方がいいと思っただけで」

「君も民間人だろうに」

「まぁ、俺には式神もいますし、戦闘訓練も神薙の方々から受けていますから、気にしないでください。それに、いまは民間人云々を言い合っている場合ではないでしょう?」


 純也の言葉に竜道寺が溜息をつく。


「たしかに、現在はSAT隊員の半数は行方不明もしくは死亡している可能性が高いですね。そう考えると今は君に力を借りるという事も」

「では、そういうことで。それと、すぐに桟橋に戻った方がいいと思います。俺と一緒じゃなければもっと早く帰れますよね?」

「ええ」


 竜道寺が頷いたのを確認したあと、純也は鉱山入り口へと向けて走り出す。


「何か隠してるわよね」


 そんな純也の後ろ姿を見ながらも何かあると思っている竜道寺は思っていたことを口にしたが、すぐに頭を振りSAT隊員や大阪市立大学の地質考古学チームが集まっている桟橋へと戻った。

 純也は、竜道寺と距離がある程度は空いたところで、式神の名前を口にする。

 すると純也の前に前鬼が出現した。


「主よ。随分と気苦労が絶えないようだな」 


 前鬼の問いかけに純也は肩を竦める。


「そんなの優斗から依頼を受けた時から覚悟はしていたさ。何かしらの意図があって優斗が神社庁に依頼を出してきたのは分かっていたからな」

「なるほど」

「それよりも、金の採掘権に関して気になったことがある」

「そこの地縛霊は口にしていることか」

「ああ」


 純也は視線をヤクザが殺された方へと向ける。

 そこにはヤクザたちの霊が成仏する事もなく自身の零体を狂ったように掻きむしりながら「金が! 俺様の金が!」と、叫んでいた。

 そんな様子を見た純也は、山の場所と金という言葉に興味を持った。


「金のことか?」

「それもあるけど、オレイカルコスにも興味があるんだよな」

「ほう」

「浮遊金属なんて気になるだろ? 男なら誰でも気になるもんだし」

「そこは年相応と言ったところなのだな」

「悪いかよ」

「興味があるということは悪くはない。それよりも鉱山の場所は――」

「ヤクザたちの霊から大体の場所は推測できる。だから――」

「乗せていけということか」

「そうなる」

「まあ、よかろう」


 純也を抱きかかえた前鬼は屈みこむと地面を蹴り空へと舞い上がる。

 そして純也が指さした方向へ向けて空を飛び始めた。


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