第834話 集落の異変(8)

 ――神堕ち島、桟橋。


 竜道寺と純也の後ろ姿が小さくなったところで、「風祭警視」と、桟橋を警護していたSATの一人が駆け寄ってくると彼女の名を呼んできた。

 

「どうかしたのかしら?」

「それが、大阪市立大学の教授がすぐにでも島を出ていきたいと言っておりまして――」

「そう」

「それとですが――」

「あなたが何を聞きたいのかわかったわ。あの二人のことよね?」

「はい。それと得体の知れない武力集団から襲われた地質考古学の方々からの供述からも踏まえて、この島からの離脱は早めの方がよろしいかと」

「分かっているわ。それが出来るのだったらすぐにしているわ。でも、海の中にも化け物はいると報告は受けているもの。おかげで接岸していた船の一隻は海中に没したと海上保安庁の人間から話は聞いているから」

「それはそうですが……」

「とにかく、何もかもが不透明な状態で今後の方針を簡単に決めることはできないの」

「分かりました。――では、彼ら考古学チームに関しては、しばらくは船上待機を」

「そうね。下手に動かれたら困るものね」


 風祭は、自身の部下である男に同意する。

 

「では、すぐに実行致します」

「ええ。詳しい話は、竜道寺さんと、峯山君が戻ってきてからにしましょう」




 風祭と、その部下であるSATの隊員が今後の指針について話し合っていた中で、竜道寺と純也は、すでに先ほどヤクザが考古学チームに対して襲撃を行った場所に到着していた。


「本当に、ここで?」


 到着して回りを見渡した純也は、少し困った表情をしながら回りを見渡していた。


「ええ。でも――」


 竜道寺は口を閉じた。

 理由は簡単で死体どころか飛び散った血液すら綺麗さっぱり消えていたからであった。


「何の痕跡も残ってないわね」


 そう竜道寺は口にする。


「本当に竜道寺さんが言っていた戦闘があったのなら、何かしらの霊的な痕跡は残っていておかしくないんですが……」

「そういうものなの?」

「はい。人は死ねば、必ず残留思念というものが多かれ少なかれ残りますから」

「そう……」


相槌を打ってきた竜道寺に対して、「そうなると……」と、言葉を口にした純也は顎に手を当てたまま思考し、「他のご遺体を確認する必要もありますね」と、口にした。


「そうなれば何か分かるモノなの?」

「分かるかどうかは分かりませんが情報が足りていない現状だと、どうにもなりませんから」

「それじゃ、村で襲われた場所まで案内するわね」

「お願いします」


 竜道寺の案内で襲撃者の遺体が置かれている場所まで移動する純也であったが、


「やっぱり、遺体も残留思念もないですね」


 村から外れた狙撃ポイントで本来は倒れているはずの死体は、どこにも転がってはいない。

 そんな状況を見ながら純也は竜道寺を見るが、彼女も何が起きているのか? と、眉間に皺を寄せている。


「ゾンビって可能性は――」


 唯一、思い言った考えを純也は口にする。


「それは私には分からないわ」


 純也の考えた荒唐無稽な言葉に頭をふる竜道寺。

 

「(主殿、一度、封印の確認を最優先にした方がいいかと)」


 そんな竜道寺の様子を見ていた純也に対して心の中で話しかけてくる式神の前鬼。


「(いま、大事なことなのか?)」

「(かなり)」

「(では竜道寺さんも連れて行った方がいいよな?)」

「(封印に関しては、要らぬ詮索を与える可能性がありますので、主様一人で確認に向かった方がいいかと)」

「(得体の知れない連中が島内を闊歩しているようだが、大丈夫か?)」

「(主様なら問題ないかと)」

「(それならいいけど……)」


 そう前鬼に返答したあと、純也は口を開く。


「竜道寺さん。島の調査ですが、俺と竜道寺さんで分かれませんか?」

「え?」

「だって、俺たちが二人で一緒に行動するのは時間的に無駄だと思いますから」



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