第814話 黄金に魅入られた者たち(11)
「ここか……」
島の中央部に位置する高台――、そこには高さ3メートル、横幅5メートルほどの鉱山入り口が存在していた。
注意深く、岩本警視正は周囲を見渡す。
「菊池村長」
「何でしょうか?」
「ここまで来る間に村民の姿を見かけませんでしたが、全員が漁に出ているのですか?」
ここまで来るまでに気になっていたことを岩本警視正は、菊池村長に尋ねる。
その質問に、菊池村長は笑みを浮かべながら頷く。
「はい。連絡が取れなくなってから自給自足ですから」
「そうか……」
納得した岩本警視正は、村長が会話をしながら発電させた機械の明かりが鉱山入り口から徐々に内部の通路を灯していく光景を見て頷く。
「では、案内いたします」
「ああ、よろしく頼む。お前たちも遅れるなよ?」
「分かっております」
地質考古学チームも、田辺教授を先頭にして鉱山の中へと足を踏み入れた。
村長を先頭に鉱山の中を歩く一行。
「まだまだ現役の鉱山ですか?」
鉱山の中を歩くこと2分ほど。
天井の裸電球で照らされている鉱山の坑道を歩く一行の先頭で歩を進めていた岩本警視正は、目の前を歩いていた菊池村長の背中を見て話しかける。
「現役とは?」
菊池村長の疑問の声。
その声に、『しまった!』と、言う表情をする岩本警視正。
「――いえ。なんでも……」
そこまで呟いたところで、岩本はふと気になった。
「外部と連絡が取れなくなって、どのくらいですか?」
「半年程度でしょうか?」
「半年……」
眉間に皺を寄せる岩本警視正。
理由は、簡単であった。
神堕ち島が昭和の初期に封印されてから、数十年が経過していることを岩本は知っていたからであった。
つまり、岩本達のような外で生きてきた人間と、結界内に居た住民との間に時間的な差異が発生している事に、岩本警視正は気が付いたからこそ、怪訝な表情をしたのであった。
ただ、それを話す必要はないと岩本は考える。
どの程度の時間的な差があるのか、それを正確に伝えても無意味だと考えたからであったが、菊池村長と岩本の話を聞いていた後ろを歩いていたSATの隊員達と地質考古学チームは、話がまた別であった。
だが、彼らは余計なことを口にはしない。
それぞれ目的があったからというのが正確なところであったが。
「何か?」
「いや、それよりも、どこまで行くのだ?」
「あそこに見えるリフトに乗っていきます」
「ほう」
菊池村長が指さした先には、炭鉱などでよく見る鉱山エレベーターが存在していた。
「あの昇降機で、地下200メートルまで降ります」
「地下200メートル。かなりの深さがあるな」
「はい。ただ、浅い部分は掘りつくしてしまっておりますので」
「なるほどな」
頷いた岩本は、村長にエレベーター前まで案内される。
そしてエレベーターに乗り込んだ一同は、鉱山をエレベーターで降りていく。
昭和初期というだけあって、洗練されていない泥臭い鉱山エレベーターはゆっくりと地下へと降りていく。
しばらくして、鉱山エレベーターが地下200メートルに到達する。
「こちらです」
鉱山エレベーターから降りた一同は、菊池村長に坑道内を案内される。
そして5分ほどで、広間に到着する。
天井までの高さは5メートル。
学校の教室ほどの広さの広間の壁一面には、裸電球の明かりに照らされた金が光を放っていた。
「――こ、これは……、金か?」
「はい。これらは、神堕ち島の金になります。含有量は、佐渡島の3倍とも言われております」
「なるほど……」
村長の説明に口角をあげる岩本は、後ろをついてきた地質考古学チームへと視線を向ける。
「すぐに調査と分析を開始してくれ」
「お任せください」
岩本の指示に田辺地質学者は頷くと、同行していた助手たちに命令する。
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