第805話 黄金に魅入られた者たち(2)
風祭と純也が今後の対策を話あっている頃、神堕ち島の村落の村長宅には、島の住民が集まっていた。
もちろん地質考古学者のチームや、大阪警察本部の岩本警視正の姿があった。
畳に換算すると30畳ほどある大広間には、20人近い島民たちも居り、女性たちは料理を拵えては広間に運んでいた。
そんな中では、すでに岩本警視正達は勧められた酒を口にしていた。
「本土から、直接、役人様が来られるとは思いませんでした」
そう語る20代の女性。
彼女は、岩本警視正が手にしていたおちょこに日本酒らしきモノを注ぐ。
「ささっ! どうぞ! 役人様っ」
「ああ、すまないな」
盛大に歓待された岩本警視正は、気分を良くしながらも、自身の手にしていたおちょこに、注がれていく日本酒に視線を落とし、気分よく日本酒を煽る。
岩本警視正を含めて、地質考古学チームのメンツの前には、贅をこらした料理が並べられている。
その大半は海の幸と言ったモノであった。
そんな中で、ギシッギシッと床板を踏みしめる音が鳴ったかと思うと、広間に二つの人影が姿を見せた。
「岩本警視正、竜道寺警視を連れて参りました」
連絡役として岩本警視正から竜道寺を連れてくるようにと命令を受けたSATの男は啓礼をするが――、
「この場で堅苦しい挨拶はいい」
そう岩本警視正に一括された、
岩本警視正は、連れて来られた竜道寺に視線を向ける。
婦人警官の服を着こなしている竜道寺。
彼女に島民の男達が視線を向ける。
その視線は、どこか人離れしている様子であった。
少なくとも女子高校生に見える――、しかもグラビアアイドル顔負けのスタイルに美少女な女性に向けるモノではなかった。
ただ、その視線に気が付いた者は、一人もいない。
竜道寺自身も、彼が女性になってから長い期間、桂木優斗と伊邪那美と過ごしてきたこともあり、異性からの懇意的な視線からは鈍かった。
「彼女は、本当に警察官なのですかな?」
そんな中で、ただ一人、白い髭を弄りながら言葉を口にした老人がいた。
見た目からは60歳を優に超えていることは一目で見て取れた。
「はい、菊池さん。彼女は、東大を出て警察官になったエリートですので」
「ほうほう」
「これで私が島外から来たということ――、そして外の世界では60年近い時が過ぎているということを理解いただきましたでしょうか?」
「うむ。そうじゃな」
「ありがとうございます。それでは、明日は――」
「分かっている。お上が、確認したいと言うのであるなら何人かの詳しい者を付ける故」
「それは助かります」
「よいよい。この村も、これからのことを考えると主らの協力は必要不可欠だからのう。是非とも、その分の報奨は出したい」
意味深な会話をする菊池という村長と、大阪県警本部の岩本警視正。
二人の会話を、手持ち無沙汰で聞いていた竜道寺はというと、自分が島民との酒宴の場に呼ばれたのは、どうやら女性警官が存在しているという事実を知らせて島民が数十年間、隔離されていたことを証明させるためだという事に気が付いていた。
「岩本警視正」
「ああ、竜道寺さん。君も、島民からの振舞われた料理を堪能したまえ。英気を養っておかないと明日からの仕事にも差し障りがあるからな」
気分よく岩本警視正はそう言い放つ。
その言葉に、軽い相槌を打ちながら、竜道寺は畳の上に座る。
すると島民の若い男が、とっくりを片手に竜道寺の正面に座り、酒を注ぐぞ? と、いうことを手ぶりで知らせてきた。
「(仕方ないか……)」
竜道寺は、自身が座ったあとに目の前に置かれた御膳を見て、その中からおちょこを手に取ったあと、男性に徳利からお酒を注いでもらう。
そしてチラリと岩本警視正の方を見る。
岩本警視正は、竜道寺の視線に気が付くと、小さく頷いた。
その様子から注がれた酒を飲まないといけないと心の中で溜息をついた竜道寺は、徳利から、おちょこに注がれた酒を飲むが、心の中で首を傾げる。
「(これは、お酒?)」
心の中で疑問を浮かべる竜道寺であった。
彼女の口の中では、細かな粒子が踊っているような感覚を覚えており純粋な日本酒か? と、聞かれれば微妙な口当たりであった。
日本酒ではあるが、日本酒にしては雑味があるようなという感じを竜道寺は受けていた。
「(なんか、師匠に毒を飲まされまくっていた頃を思い出すような味だけど……。まぁ、師匠には大抵の毒も無効化できるくらい身体操作されているけど……。――でも、なんだか味がゾンビパウダーに近いような……。気のせいだよね)」
桂木優斗から、食料や飲料に関しては特に注意を受けていた竜道寺。
実際、竜道寺は桂木優斗から肉体改造どころか遺伝子改造を施されており、全てを融解する王水にすら耐性を有していた。
さらには、それらは錬金術系や植物系など人間を化け物に変貌させる薬の無効化にまで及んでおり、竜道寺は注がれた日本酒を飲み込んだ。
それと同時に日本酒が持つアルコールは瞬時に分解された。
「(水を飲んでいるみたい)」
それが竜道寺の続いての感想であった。
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