第803話 ヒヒイロカネ鉱石(4)
「ヒヒイロカネ色?」
思わず純也は聞き返す。
日本人には、ヒヒイロカネという言葉は既に殆ど失われており、一般人レベルではオカルトに傾向している人間くらいしか知らないからであった。
そんな純也の様子に、前鬼は肩を落とす。
「主よ。ヒヒイロカネというのは、赤黄金色に光る鉱石だ」
「なるほど……。――で、そのヒヒイロカネという鉱石が、この島にあるってことか?」
「うむ。そして、それが理由で、この島は神の島と命名された」
「でも、さっきは確か神堕ち島って言ってなかったか?」
前鬼は、後鬼を見る。
そして後鬼が頷いたのを確認したあと、
「神堕ち島と、命名したのは時の帝である平清盛となる。理由は、簡単だ。無数の悪鬼が、島中に出現したからだ」
「でも、島に村が現在はあるってことは、悪鬼の討伐は終わったということだよな?」
「うむ。我らが主であった安倍晴明様、そして安倍晴明様が従えた100匹の妖と、陰陽庁と出雲大社の神官や巫女、民間の退魔師に平家の武将たちが一丸となって、多大な被害を出しつつも封印し、この国を守ることは出来た」
「封印? ってことは、封印が解かれる可能性があるってことか?」
「いずれは可能性があるという事くらいだ」
「なるほど……。――ってことは、いまの状況は?」
「我らが安倍晴明様と戦っていた時と違うが、一度、封印を確かめに行った方が良いのかも知れんな」
「そうか……。それって桔梗さんにも伝えた方がいいよな?」
「うむ。半神であり水神の特性も持つ天野であるのなら、封印が解かれていた場合、最大戦力となるであろうからな」
「そこまで事態はヤバいのか?」
「可能性の一つとして考えておくといいというくらいだ。どちらにせよ、話をしておくことに越したことはないだろう?」
「分かった」
純也は携帯電話を取り出す。
すると、アンテナが立っていないことに気が付く。
「駄目だな」
「どうした? 主よ」
「電波が来てないから、桔梗さんとすぐに連絡が取れないな」
「ふむ。――だが、我らも式神である以上、主から遠く離れることは出来ないからな」
「そしたら、一旦、桟橋まで戻って、船から連絡を取ってもらうって方法がいいかもな」
「なるほど……。――では、すぐに行動に移した方がよいな」
「ああ。前鬼も後鬼もすまなかったな」
「気にすることはない、主よ」
「そうです。主様」
二匹の鬼は、顕現していた呪力を開放――、その姿を消す。
――桟橋。
桟橋に戻ってきた純也は、SAT隊員達の姿を確認する。
すると、隊員達に指示を出している女性と目が合う。
SATの女性隊長である風祭美津子が眉間に皺を寄せて駆け寄ってくると純也の様子を確認した後、口を開く。
「心配したのよ! どこに行っていたの? 周りを探しても姿を見なかったし」
「トイレに」
「――そ、そう……。それなら仕方ないわね。でも、それならそうと言ってちょうだい」
「すいません」
「もう、いいわよ。無事なら」
「何かあったんですか? テントも張り終えてないみたいですし」
「基地と連絡がつかなくなったの」
「基地と?」
「ええ。船には無線機が搭載されているのだけれど、無線機が一切、何も受信しなくなったの」
「そんなことあるんですか?」
「いいえ、ないわ。それどころか衛星携帯電話も使えないの」
「衛星って空に浮かんでるアレですよね?」
「そうね、衛星携帯電話、携帯も現在は使用できなくなっていて、島外との連絡がつかないの」
「それで、SATの人たちは何か慌ただしい雰囲気なんですか」
「ええ、そうね。とにかく、現状では情報が少しでも欲しいのよ? それで、神社庁から派遣されてきた貴方に意見を聞きたくてね」
「そうでしたか」
純也は相槌を打つ。
そして、どこまで話したらいいのか? と、考えたところで
「そういえば竜道寺さんは、どこに?」
先ほどから今まで竜道寺の霊力――、オーラを感じなかったことに気が付いた純也は口を開く。
「岩本警視正に呼ばれて村に行っているの」
「こんな状況なのに?」
「こんな状況になったのは、竜道寺さんが村に向かってからだから、彼女は何も知らないわ」
「そうなんですか」
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