第802話 ヒヒイロカネ鉱石(3)
「主」
「何だ? 前鬼」
「ここには、以前に安倍晴明様と来たことがある」
「安倍晴明って、お前たちを元々使役していた平安時代の陰陽師だよな?」
「うむ。それで相違ない」
「――で、平安時代に、ここに来た事があるのか?」
「そうなる。ただ、主の素振りからして神堕ち島で起きた出来事については、現在の陰陽庁には詳しい話は残ってはいないようだな」
「まぁ、俺は陰陽庁には身を寄せてないし」
「だが、主の友人は陰陽庁に身を寄せているのだろう?」
「寄せているというかトップらしいが……」
純也は複雑な表情で呟く。
「その主の友人――、あの男が今回の神堕ち島に過去に起きた事件のあらましを隠した上で仕事の依頼をしてきたという可能性は?」
「そういうことはないと思う。少なくとも優斗は、そんなことはしないだろうし」
「たしかにな……」
頷く前鬼。
前鬼からしたら、桂木優斗という存在は人間の形をした呪いにしか見えない。
その呪いの度合いと言えば、歴代最強と言われた菅原道真すら遠く及ばないほどの存在だと前鬼は最悪の評価をしている。
だからこそ、遠回しな手回しをするような真似をする必要はないと前鬼も、その点は桂木優斗という化け物を違う意味で信用はしていた。
「それよりも、安倍晴明がココに来た事があるというのなら、何かあったんだろう?」
「うむ。主は、天乃浮船というのを知っておるか?」
「天乃浮船? ――いや、しらないが……」
初めて聞いた単語に、純也は首を傾げる。
「なるほど……。現代の日本人は日本神話を学んではいないと桔梗から聞いておったが、本当のようだな」
「何だか、俺が不勉強のように聞こえて馬鹿にされているように感じるんだが……」
「そんなことはない。それよりも、話が脱線するのは避けたい」
「そうだな……」
少し不服そうな表情をする純也。
前鬼と純也のやりとりを見ていた後鬼は、心の中で溜息をつく。
さらに前鬼の話は続く。
「さて、天乃浮船だが、それは空を浮かぶ船になる」
「空に浮かぶ船? 飛行機みたいなモノか?」
「それとは違うな」
「違うのか……。だが、空に船が浮かぶんだよな?」
「うむ」
前鬼は頷き――、
「平安時代に、宋と日本は私的な貿易をしておった」
「国単位じゃないんだな」
「うむ。国家間の取引は、ずいぶんとあとになってからだ。基本的には太宰府近くの豪族が取り仕切る形で貿易をしていた。そこで貿易の要として利用されていたのが金と銀になる。そして金の鉱脈が見つかったのが神堕ち島だ」
「つまり宋と貿易をするための資金調達のために金採掘のために安倍晴明が、この島に来たってことか?」
「正確には違う。金の採掘が始まってすぐに、平清盛が政権を握ったのだが、その頃に神堕ち村にて奇病が発生したのだ。そして、それは平清盛が宋との貿易を本格的に行おうと瀬戸内海を整備し始めた頃であった」
「つまり、瀬戸内海の――、この神堕ち島で奇病が発生したから、その収拾のために安倍晴明が派遣されたということか?」
「そうなる。その時に安倍晴明様は見つけたのだ。人の意志だけで物体を空中に浮かせる事が出来る『ヒヒイロカネ色をした鉱石』を」
そう前鬼は告げた。
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