第801話 ヒヒイロカネ鉱石(2)

「何というか――」


 片目を瞑って島の集落へと視線を移す純也。

 彼の目には、人のオーラと見たことがない歪なオーラが集落全体を覆っているような後景が映し出されていた。

 それは、明らかに自然的なモノではないというのが住良木にオーラ判別について教えられた純也の感想であったが……。


「普通の町などでは見ない色をしてるんですよね……」


 若干、自信無さげに純也が竜道寺に返答する。

 ただ実戦経験が殆どなく、霊障を含めた現場での活動をしてこなかった純也には、知識はあっても、それを断定できるほどの体験が圧倒的に不足していた為、自信なく答えたのであったが……。


「そうですか……。私には、そう言ったモノを見る力はないので、羨ましいです。ただ、峯山君の見解はとてもためになります」

「そう言ってもらえると――。もしアレでしたら、桔梗さんに連絡をとって聞いてみますか?」

「それって、ここまで来てもらう必要があるのですよね?」

「まぁ、そうなります。霊障に関しては、実際に見ないことには判別はつかないと思いますので」

「そうですか……。それなら、少し様子を見た方がいいかも知れませんね。船の方に連絡を取って行動してもらった場合、命令を無視したと言われかねませんから」

「そこは面倒ですね」


 純也は、溜息をつく。

 

「まぁ、峯山君が、気にする必要はありません。元々は、陰陽庁の仕事であり警察庁の管轄ですから。それに、現状は何も起きていませんし」

「それは、そうですが……」


 純也が困った表情をし――、


「ちょっと俺は、その辺を見てきます」

「ええ」


 頷く竜道寺。

 話も一区切りついたところで、


「それでは本官は、岩本警視正に報告してきます」


 岩本警視正の連絡を携えてきたSAT隊員が、風祭隊長に報告したあと、徒歩で5分ほどの集落に向けて走っていく。


「峯山君。ちょっと待ってください」


 歩き出した純也の背中に声をかける風祭。


「何でしょうか?」

「一人だと危険です。そろそろ日が暮れますから」

「まぁ――、俺は大丈夫ですよ。それよりも野営の準備をされた方がいいのでは?」


 純也は、素っ気ない返事をしたあと、桟橋を立ち去った。

 桟橋から港に移動した純也は、漁港のセリが行われる建物の近くを歩きながら、SAT隊員だけでなく竜道寺からも見えない場所へと移動する。


「この辺なら、問題ないか」


 純也は周辺を見渡し気配が無い事を確認したあと、一呼吸する。

 そして――、「前鬼、後鬼」と、式神を顕現させる。

 炎が吹き上がった中から姿を見せたのは体長3メートルを超える炎を操る鬼である前鬼。

 水が吹き上がった中から姿を見せたのは胴体格の氷を操る事に長けている鬼である後鬼。


「悪いな。二人とも」


純也の言葉に、「問題は無い」と二匹の鬼が、コンクリートの上に座る。


「それにしても主よ」

「何だ? 前鬼」

「久しぶりに呼ばれたが随分と霊力と呪力が上がっておるな?」

「そうか? 俺としては、あまり実感はないんだが……」

「まぁ、神薙が近くにいるのであれば、短期間での急成長も実感は薄いであろうな」


 そう前鬼がフォローを入れたところで、険しい表情をしていた後鬼が口を開く。


「前鬼、この島は――」

「ああ、後鬼。ここは神堕ち島だな」

「神堕ち島? 安倍晴明の名前が資料にあったが、やはり二人とも何か知っているのか?」


 純也の問いかけに、二匹の鬼は神妙に頷いた。


  

 


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