第799話 アザートスとの対話(4)
「これは、アザートス様」
「フェンブラン。代わりはないか」
「はっ」
アザートスに話しかけたタコに似通った触手を体中から生やした人間の形をした紫色の男は恭しく頭を下げた。
「それで、本日も妹君を?」
「うむ」
「そうでしたか……」
アザートスは、真っ白な広大な広間を歩きながらも、フェンブランという男からの言葉に応じる。
広間には人間が3人ほど入れる卵の形をしたポットが数千を超える数設置されていた。
1分ほど、ポットの合間を歩いていたアザートスは足を止める。
ポットの高さは、1メートルほど。
幅は2メートルほどあり、全長は4メートル近い。
そんなポットの中には、真っ白な髪をした10代半ばの少女が目を閉じて寝ていた。
「シェラ。すまないな……。未だに我らを襲った病を克服する術を見つけることが出来ていない。何よりも安住の地すら――」
「アザートス様、皆の者からの話では、この星では適していないのでしょうか?」
「一つの星をテラフォーミングするには膨大な時間が掛かる。それは、お前も承知しておるだろう?」
「はい……。――ですが、病の根絶をせねば、近い将来、我らは絶滅することでしょう」
「分かっている」
核心を突かれたアザートスは表情を歪める。
「出過ぎた真似をしてしまい――」
「よい。それよりも――」
「それよりも?」
「もしかしたら――、一縷の望みはあるのかも知れぬ」
「それは、どういう意味でしょうか」
「如何なる病も治せるという存在が人間の中から出たようだ」
「家畜の中からですか?」
「ああ。信じがたいことにな」
「――では、病だけでも?」
「もしかすれば、フェンブランの病も完治できるやも知れぬ」
「では、すぐにでも、その家畜を――」
「――いや、その者の存在が確認できたのはつい最近だ。何よりも、すでに消息不明となっている」
「では同じ家畜に探させればいいだけの話では?」
「分かっている。だが――、安倍晴明の件もある」
安倍晴明という言葉を聞いた途端、フェンブランの体表に生えていた無数の触手が激しく動く。
「――では、まずは安倍晴明に対して対策を取ることが必要ということですか?」
「うむ。だが、未だに奴の所在は知れぬ(桂木優斗という男が、安倍晴明ではないことは分かったことが行幸であるが……)」
「そうでしたか。――ですが、コールドスリープ状態も有限です」
「分かっている。我が臣下も、汝も、我が妹も、救わねばならぬ。それが王たる我の役目ではあるからな」
アザートスは広間に設置されている数千を超えるコールドスリープ装置を見て、自身に言い聞かせるように呟いた。
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