第798話 アザートスとの対話(3)

 ――南極大陸、ボストーク基地跡地。


 ロシアのボストーク基地が壊滅したあと、その遥か地下4000メートルに存在するボストーク湖の中心位置に出現した広大な白の台地。

白の台地には、無数の尖塔が存在しており、その尖塔の一つに光が舞い降りた。

尖塔の頂上の直径10メートルほどの台座に降りた光は、徐々に人の形をとっていき、白髪の男が姿を現した。

 

「アザートス様。おかえりなさいませ」


 空中に投影されていたパネルを操作していた白髪の女性が、貴族の女性の如く足を曲げて挨拶をする。


「今、戻った。変わりはないか?」

「はい。ただ、アザートス様が力を見ると言った桂木優斗という個体の計測結果が出ています」

「ほう」


 アザートスの視線の50センチほど離れた空中に半透明なパネルが表示される。

 そこには、複数のグラフと幾何学的な文字が流れる。


「これは興味深い。肉体の遺伝子は通常の人間と代わりないのか……」

「はい。ただ、唐突に肉体の素体が組み直される場面が確認できました」


 もう一つの画面が表示される。

 そこには、桂木優斗がアザートスに向けて戦闘態勢に入る場面であった。


「その場面ですが、明らかに細胞分裂の速度がおかしいのです」

「ほう。つまり、奴の力は細胞分裂に依存していると――、そういうことか?」

「はい。ほぼ間違いないと思われます」


 アザートスは、女の説明にしばし思考したあと口を開く。


「転送は使えるか?」

「転送ですか? どちらへ?」

「木星へのポータルゲートの開放は出来るのか? と、いうことだ」

「それなら可能ですが……」

「ならば、次の交渉場所は木星で行うとしよう」

「――そ、それは危険です! アザートス様でも、木星の力場には1分と耐えることは出来ません!」

「だからこそ、この星間航行船のバックアップが必要になる――そういうことだ」

「つまり交渉が決裂した場合、バリアを解除し、桂木優斗という人物は木星の重力と磁場と力場で倒すと?」

「それが賢い方法であろう? いまのままでは桂木優斗に勝つ算段がない――だが星の力には、どんな強大な力を持ってしても抗うことはできないからな。それに人間では木星の大気に振れれば即死であろう?」

「それは明暗かと」

「――では、あの愚かしくも考えが甘い、あの神楽坂都という女を人質にとり交渉としようか」

「分かりました。――では、すぐにでも隠密に優れた者を選出いたします」

「うむ。なるべく早めにな」


 アザートスは、満面の笑みを浮かべると尖塔の最上階から姿を消した。




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