第797話 アザートスとの対話(2)
「何の冗談だ?」
「何?」
「何の冗談だと聞いている」
コイツは――、こいつらは都に害を成した連中であって――、
「お前は――、お前たちは――、俺の敵だろうが」
「くっ――」
殺気を込めた視線を向けた途端、アザートスと言った男の表情が明らかに変わる。
ただ、ここでは手を出すことはない。
何せ、都が後ろにいるのだ。
四肢をバラバラにバラして殺すという場面を都に見せるわけにはいかないからだ。
「我は、汝と争うつもりはない」
「先にオマエラが、手を出してきておいて、アラソウツモリはナイ……だ……ト……」
コイツは何を言っている?
俺の都に手を出した――、それだけでコロスのはカクテイしていることだろうが!
――ああ。
もう……ザレゴトは……イイ……。
コロセ――。
赤黒い憎しみが沸き上がってくる。
その衝動の通りに一歩踏み出す。
「優斗っ!」
誰かが俺の腕を掴んでくる。
「……ミヤ……都?」
俺の腕を掴んできたのが都だと分かった瞬間、憎しみが――、怒りが――、霧散する。
「駄目だよ、優斗」
「何がだ?」
「優斗は会話をしにきたんだよね? さっき来客って言ったよね?」
「……だが」
「今の優斗は駄目!」
「な、何がだ?」
「だって、いまの優斗は辛そうだもの。だから駄目!」
「……はぁ」
俺は深呼吸したあと、アザートスを見る。
「命拾いしたな?」
「そ、そうであるな……(なんだ? コヤツ本当に人間か? 殺意が、物理的現象を引き起こしていた……、そんなことがあり得るのか?)」
「――で? この俺をスカウトに来たと言っていたが、どういう意図だ?」
アザートスは、少し思考したあと口を開く。
「君は、物質を作り出すことが出来るのだろう?」
「物質?」
「ああ。君の映像は見せてもらった。山を再生させた場面があった。そこから推測するに、我々が調査した結果、君は分子の構築や再構築どころか原子に干渉し構築をすることが可能だと結論付けてスカウトにきた」
「話が見えないな」
俺は、努めて惚ける。
それと同時に、俺の行動が目の前の生物に対して興味を持たれている事を理解する。
「君は、星の再生も可能だろうか?」
「星の再生? テラフォーミングってことか?」
まぁ出来なくはないが。
本来の力の4割まで回復すれば惑星を一つ作るくらいは可能だ。
だが、その事と目の前のアザートスという存在が求めていることが繋がらないが。
「人間風に言えばそうなる。どうだろうか?」
――さて、何と答えるべきか。
まぁ、隠すほどのこともないか。
「可能だが、それに何の意味がある?」
「そうであるか。――では頼みがあるのだが、我々と一緒に来てもらいたい」
「まるで、どこかの星の再生をしてほしいみたいな物言いだな?」
「強ち間違ってはいない」
「優斗?」
俺がアザートスと会話をしていたところで都が心配そうな表情をして、俺の名前を呟いてくる。
俺は都の頭の上に手を置き「大丈夫だ」と、言葉を返し――、
「だが、断る。そもそも、この俺に何のメリットがある?」
「ふむ。そうだな……。この星の家畜どもの処分を見送りにするという取引はどうだろうか?」
「――しょ、――処分!?」
都が息を呑むのが分かる。
「おい、小僧。そんなことをした瞬間、てめーらは皆殺し決定だぞ?」
「たしかに君は強い。しかも、我々の眷属が全てを殺す力があるだろう。だが、世界同時に攻撃を仕掛けた場合、君は、守り切れるかね? 全ての家畜という人類を」
その言葉に俺は思わず――、
「ハハハハハッ」
「何がおかしい?」
これが笑わずにいられるか?
何を! どこを! どう見たら! この俺が人間を――、人類を守るような殊勝な人間だと判断したのか。
どちらかと言えば、俺は人間という存在が憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて憎くて。
――仕方ないというのに。
どうして! 都を奪った! 人間のようなゴミを! 俺が守らないといけないのか!
「この俺が人間を――、人類を守るために戦う? 何を勘違いしているんだ?」
「何!?」
ああっ! イラダツ!
「好きにすればいいだろうが。俺は、そんな事をされても一切、気にしない。だが、俺の身内に被害が及んだ瞬間、お前らは殺す。それは確定だ。今回は、都が止めたが、殺さずに見逃してやるが」
「そうか。よく理解した。また日を改めて出直すとしよう。失礼した。桂木優斗」
アザートスは、空中に浮かび上がると同時に、その姿が掻き消える。
「(空間転移? いや――、量子テレポートか)」
「優斗、大丈夫? それよりも、あの人って――、アザートスって優斗の知り合いなの?」
「いや、知らない。だが、俺の情報収集をしている事は確かなようだな」
「そうなんだ……。――でも優斗」
「何だ?」
「誰かが死んでいい! みたいな言い方は駄目だよ!」
「え? だって、赤の他人だぞ?」
「駄目! そんなの優斗じゃないから! そんな悲しい考えは駄目だよ! 人は、みんなが支え合って生きているもの。私は大切な人が亡くなったら悲しいもの。優斗だって、そうだよね?」
「……」
俺は思わず無言になる。
「それでね、その大切な人が大切にしてる人が亡くなったら、巡り巡って悲しいもの。だから、他人なんてどうでもいいみたいな考え方は優斗はしたら駄目だよ?」
「だが……しかし……」
「だめ!」
「うっ……。…………わ、わかった。善処する」
「うん!」
何が嬉しいのか都がニコリと笑みを俺に向けてくる。
「たぶん、今の人も、もしかしたら大切な何かがあるのかも知れないよ? 優斗。そうじゃなかったら、態々、優斗を仲間にしようとしないと思うから」
「人間を家畜呼ばわりするような奴だぞ?」
「それでも……だよ。だから、何で星の再生が必要なのか今度会ったら聞いてみるといいと思うの。もしかしたら話し合いで全部解決できるかも知れないよ?」
「それは――」
難しいと思うが。
だが、都が、そう願うのなら――。
「善処する」
そう答える以外の選択肢はないよな……。
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