第794話 島上陸(4)
――不定期に照らし出される岩肌。
そこは、直径1キロほどはあろうかというほどの大空洞であり、ボールを半分にしたような形をした場所であった。
大空洞の内部、外壁に沿った場所には、煌々と炎が舞い上がっており、それは溶岩であった。
溶岩は、凡そ自然で作られたとはとても言えない大空洞内を朱き灼熱で照らしている。
そんな大空洞の中央には、ギリシャの神殿を連想させるような建物が存在していた。
神殿の天蓋は、数百の赤く光る赤銅色の柱で支えられており、一つの柱だけでも数十トンの重量を誇ることから、本来であるならば相当の圧迫感は本来はあるはずであったが、広大な大空洞という敷地と、その大空洞の高さ――そして柱と柱との距離もあることから、荘厳こそ感じさせてはいたが、視覚的には圧迫感を殆ど感じるような事はなかった。
そんな神殿の内部。
中央に位置する場所には、高さ100メートルまで燃え上がる青い炎が、くり抜かれた赤銅色の床の穴から断続的に吹き上がっては揺れていた。
「セメクト様」
唐突に神殿内部にしわがれた声が響き渡る。
その声は低くはあったが、不思議と巨大な空間を満たすような響きを有していた。
声の発生元には、いつの間にか一人のローブを着た男が立っていた。
男は轟轟と立ち上がり不定期に揺れる青い炎を直視しつつ、片膝をついたまま微動だにしない。
「何だ?」
「島の結界が解除されたようです」
恭しく頭を下げる男は頭を下げつつ現状を説明する。
「ほう」
「如何いたしましょうか? もしかしたら安倍晴明が――」
「それはない」
「そうでしょうか?」
「ああ。あれから、すでに1000年が経過しておる。アレは少なくとも人間だ。だが、安倍晴明の後任と陰陽庁の連中は忘れたわけではないだろう」
「それでしたら、我らを討伐する方法を見つけたという事でしょうか?」
「さてな。だが、1000年という時の中で我は完全なる力を取り戻しつつある。あとは、安倍晴明が施した結界が解ければ我は完全なる復活を遂げることが出来る。さすれば異世界から来訪した、あの化け物の世界を蹂躙することができる」
「はっ。たしかに……。ですが、あの化け物が、この世界に戻ってきていないとも限りませんが……」
「それはない。次元を超える事なぞ神である我ですら容易くはない。それに1000年という時の中で我は、以前よりも遥かに力を増幅させておる」
「――では、侵入してくる者たちの対応は如何致しましょうか?」
「良いではないか? 我が尖兵の相手をさせればよい。どこまで今の人間が抗うことが出来るのか様子を見るのも一興ではないか?」
「分かりました。それでは、人間たちに有効な手段で対策を取ります」
「うむ。くれぐれも、一思いに殺すなよ? この世界の人間には、責任を取らせる必要がある。あの化け物の責任をな」
青い炎は、一瞬、オレンジ色に――、憎しみの灯を、その炎の内側に宿す。
それを見たローブ姿の男は立ち上がると、神殿から出る。
神殿の外には、人間の服を着た真っ黒な人形が並んでいた。
「ミカエルの名において命ずる! 侵入者を手厚くもてなせ!」
男の命令の通りに人の服を着た人形たちの姿が変化していき人間の恰好をしたかと思うと大空洞と地上の島を繋ぐ階段へと歩き出した。
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