第795話 島上陸(5)

 島に着岸した海上保安部の船から降りた海保の指示に従って港に降りていく岩本警視正。

 そのあとに送れて竜道寺や、純也が船から降りた。

 

「機材の荷下ろしは、海保の連中に任せておけばいい! それよりも島の調査を行うぞ!」


 待ちきれないと言った様子で岩本警視正は、船から降りてきた地質学者である田辺へと視線を向けた。

 地質学者の田辺教授も神妙な顔つきで頷くと、自分の助手やスタッフに指示を出す。

 

「風祭君」

「何でしょうか?」


 竜道寺や、純也に遅れて下船し周囲を伺っていた特殊強襲部隊SATの隊長である風祭は、周囲を警戒しながらも話しかけてきた岩本警視正に応じる。


「島の調査を行いたい。SATの人員を連れていきたいのだが良いか?」

「それは、賛成しかねます」

「何?」


 岩本警視正は、自分の意見が通ると思っていたばかりに、唐突な否定の言葉に眉間に皺を寄せた。


「この島の現状は、不自然すぎます。そもそも昭和初期の段階で島と本州を繋ぐ海底ケーブルの切断と島が陰陽庁という組織により秘密裏に隠されていたこと。以上の点から、もうすぐ日が暮れることも含めて、本日は海上に戻り一度、海上で島の様子見をした方がよろしいかと思います」


 手足として利用しようとしていたSATの人間から意見を言われたこと。

 そして、自身に意見をしてきたのが女性だったという事もあり、岩本警視正は内心では面白くなく舌打ちする。


「ここの責任者は誰だ?」

「それは、岩本警視正ですが?」

「――なら! 上官の命令は絶対だろう!? まったく――、これだから女は……」

「その発言は――」

「とにかくだ! 今回は、大阪知事からの要請で君たちは派遣されているに過ぎない! 自分の立場と言うモノを分かってモノを言いたまえ! まったく――」


 ブチブチと文句を言いながら岩本警視正は、桟橋の方から島の方を見る。

 すると岩本警視正の表情が変化する。


「どうやら、島には住民がいるみたいだぞ?」

「住民が?」


 真っ先に反応したのは、竜道寺であった。

 視線を着岸した桟橋から建物の方へと向けると、いくつもの明かりが点灯していたのが確認できたからだ。


「先ほどまでは何も無かったのに……」


 竜道寺が島の街並みから目を離したのは一瞬であった。

 岩本警視正と、SATの女性隊長である風祭が口論を始めたことから諭そうと考えた間の出来事であったからだ。


「オーラは、人間のオーラに近い……?」


 純也も、視線の先には無数のオーラを――、霊気を確認したが、それはどこか歪な霊気を感じていたが、限りなく人であった――、そのオーラは。


「これは……」


 風祭も、日が沈みかけてきた中で百件以上の点灯した家々を見て小難しそうな表情を受かべた。


「よし! 島民に話を聞くぞ!」


 島の家々に向かって歩き出す岩本警視正の肩を風祭は掴んで止める。


「待ってください。明らかに不自然です」

「これだから女は――。何が不自然か! 長い間、連絡が取れていなくても、ここは日本の領土に違いないし、こちらにはSATがいるのだ! 何の問題もなかろう!」

「――ですが、このタイミングで、このような現象が起きるのは――」

「くどい! ここの責任者は私だ! これ以上、仕事の邪魔をするのなら、君を職務怠慢の無能として警察上層部に報告してもいいのだぞ!」


「……わかりました」

「分かったのならいい! SATの半分は私についてこい! 竜道寺君は、そこの神社庁の男を監視しておいてくれ」


 その岩本警視正の言葉に、内心では溜息をつきながらも竜道寺は「わかりました」と答える。

 そんな素直に応じた竜道寺に気分を良くした岩本警視正は、SATの隊員を半分と考古学チームを連れて島の集落へと向かっていく。


「それで、竜道寺さん。俺たちは、どうしますか?」

「何もなければいいけど……」

「まぁ、何かあったら自己責任じゃないですか?」


 とくに先ほどの警察官に何の思い入れもない純也は、そう口にする。


「すまなかった」


 そんな竜道寺と、純也にSATの女性隊員である風祭は謝罪の言葉を口にしながら語り掛けた。



 

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