第789話 神社庁と大阪府警(3)

「何か問題でも?」


 岩本警視正が、純也の呟きに反応する。

 そんな岩本警視正の言葉に、純也は口を開く。


「自分としては、戦えない人間を危険な現場かも知れない場所に連れていくのは賛同できません」

「はぁー。峯山君、君は分かっていないようだが、地質考古学者を連れて行くという事は、島とのアクセス異常が起きたことを調べる必要性からだ」

「ですから、島での安全性をきちんと確保できてから、それからでも遅くはないと思います」


「まったく――」と、額に手を当てた岩本警視正。


「とりあえずだ。先ほど、説明したとおり、神社庁と陰陽庁は、大阪府警の管理下に入ってもらう。それに――、危険だと峯山君は断じているが、SATを20人も連れていくのだ。しかも、今回は特例として実弾運用も許可が下りている。たとえ、暴力団やヤクザ、不法滞在者が相手だとしても武力で鎮圧できる」

「それは、人間相手という事ですよね?」


 そう純也は口にする。


「それが何か?」


 当たり前だとばかりに岩本警視正は得意気に笑みを浮かべるが――、


「岩本警視正」

「何かね? 天野さん」

「この世界には、危険なモノは人間だけではない」

「何を言っているのかね? もしかして、化学兵器や生物兵器があると言いたいのかな?」

「――!」

「桔梗さん!」


 天野が、体の一部の表面を水神の竜の化身たる蒼い鱗へと変化させて現実を岩本警視正に見せようとしたところで純也が、その手を掴んで頭を左右に振る。

 

「ここだと不味いです。それに普通の人間が、誰もが理解してくれるわけがないです(こんなところで、半神の桔梗さんの正体を一般人が知ったら――)」


 親友の桂木優斗という理解不能な存在が居たからこそ、人間世界――、現実世界には様々な存在が居ることを辛うじて受け入れることが出来た純也。

 彼から見て、普通の人間が妖怪や神や魔物と言った存在を簡単に理解して受け入れることは出来ないと理解していた。

 そして、知られてしまえば、受け入れられない人間からはどういう扱いを受けるのか? と、いうことも。


「そう……じゃな」


 神社庁や陰陽庁という不可視の存在相手に対して手段を講じているのなら、秘密も共有される。

 だが、一般人からしたらそれは脅威でしかない。

 排除の対象にしかならない。


「あの男がいるから、私らも普通に生活できておるのだからな」


 桂木優斗という規格外の存在。

 世界中の国家や軍隊、兵器が束になっても戦いにすらならないほどの存在。

 それが、桔梗や白亜、純也を守っている防壁になっている。

 そのことくらいは、純也も神社庁の住良木から教えられていた。

 納得はできない。

 理解もできない。

 何故なら純也から見た桂木優斗という存在は、昔の桂木優斗とは違っていて――、人としても考え方も異なっていたから。

 人を軽々しく殺すなど、それを肯定するような明確な意思を持つような人間ではなかったから。

 だからこそ、桔梗の――、桂木優斗が居るからこそ、普通の生活が出来ているような桔梗の発言には同意できずに目を背けた。


「何の話をしているのかね?」


 桔梗と純也との会話を聞いていた岩本警視正は、自分がまるで無視されているような置き去りにされているような恰好になったことにいら立ちを覚えていた。

 だからこそ、イライラとした鬱憤を言葉に載せたような物言いになった。


「――いえ。こちらの話です」


 純也は、桔梗からの視線から意識を逸らすようにして岩本警視正の方へと向き直った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る