第784話 大阪府警察本部本庁舎(1)
――大阪府警察本部本庁舎に、女性警察官の制服を着て登庁した竜道寺幸三は、会議室の一室に通されていた。
室内は、200人近くの警察関係者が会議で使う事もある事から、かなり広く作られていたが、捜査会議中では無い事から、置かれているのは長机とパイプ椅子だけであった。
受付の警察官に登庁した事を伝えた竜道寺は、すぐに受付の女性警官に懐疑室に案内されたが、既に30分近く放置されていた。
「神谷警視長から渡された資料では間違いはないはずだけど……」
そう竜道寺は一人呟く。
女性になった竜道寺の容姿は、一言で言うのであれば、100人の男性が横を通り過ぎたら100人の男性が振り返るほどの美少女であった。
腰まで伸びている艶のある黒髪は、後ろで黒いバックルで纏められて、そのまま背中に流していた。
既に1万年以上を修行に費やしている竜道寺幸三としては男性の意識よりも女性として生きてきた時が長すぎること。
そして、伊邪那美命という女神に長い間、女性としての立ち振る舞いを教えられていたこともあり、自然と女性としての所作が行えていた。
それは、まるで今は絶滅危惧種である大和撫子と言っても過言ではないほどに。
「はぁー」
鈴の音を鳴らしたような澄んだ溜息。
それだけで、竜道寺の声色が美しいというのは誰が聞いても分かるようなモノであり、現に彼女が大阪府警本部本庁舎に登庁してから、竜道寺の美貌は、大阪府警察本部内に驚くほどの速さで共有されていた。
――ガチャリ
会議室のドアが開く音が、会議室内に響き渡る。
会議室に入ってきたのは二人。
一人は40代後半の男でありダークスーツを着た男であった。
眼鏡をかけており、髪はオールバックであり、身長は180センチ近く神経質な顔つきをしていた。
もう一人は50代前半と言ったところで、チャコールのスーツを着ており、いやらしい目付きを竜道寺の体を舐め回すように見ていた。
「待たせてしまって申し訳ないね。竜道寺幸三君で間違いないかな?」
声を発したのは40代の男であった。
パイプ椅子から既に立ち上がっていた竜道寺は、「日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊所属の竜道寺幸三です!」と、声を張り上げた。
ただ、その声色は女性特有であり、声を張ってはいたが、可愛らしいという印象内で止まっていた。
竜道寺の紹介に頷いた男は、「岩本幸一だ」と、挨拶を返す。
さらに――、
「彼は――」
横に立っていた50代前半の男が頭を下げる。
「谷口 将司です。警部補です。竜道寺幸三警視は、男性と伺っていましたが……」
「えっと……。まあ――」
「谷口君。彼――コホン! 彼女は、遺伝子レベルで女性になっていると報告を神谷警視長から受けている。あまり不躾な質問をするべきではない」
「そ、そうですね……。申し訳ない」
「――いえ。お気になさらず」
「それにしても立ち振る舞いといい、女性として生まれて育ってきたようにしか見えませんな! 岩本警視」
「失礼な物言いはするな! と、私は注意したが?」
「――は! も、申し訳ありません」
慌てて謝罪をする50代前半の男である谷口は頭頂部がハゲていた。
それが、身長160センチ少ししかない竜道寺からは見ることは出来なかったが、謝罪をするために、谷口が頭を下げたことで、竜道寺の目に入った。
「気にしないでください。誰しも、先入観と言うモノはありますから」
「流石は東大法学部卒業の方は違いますな。同じ東大法学部卒業として誇りに思いますよ」
岩本はニコリと笑みを浮かべる。
「あの、大阪府警察本部本庁舎で集合と伺ったのですが……」
集合と書かれている資料を手にしていた竜道寺は、困ったような表情をする。
理由は簡単であった。
神谷警視長に事前に説明を受けていた同行者の人数から見て会議室には竜道寺と、その他2名しかいなかったから。
「そのことですが、神社庁というオカルト染みた連中を神聖なる庁舎に入れるわけにいきませんから。警察官は警察官同士――、とくに我々は選ばれた東大法学部卒の人間ですからね、事前に相談は必要かと思っていたのですよ」
眼鏡をクイッと持ち上げた岩本警視は、竜道寺を値踏みするような眼差しで見た。
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