第785話 大阪府警察本部本庁舎(2)
「そ、そうなのですか?」
「ええ」
相槌を打った竜道寺に向けてニコリと笑みを浮かべる岩本警視は、手提げカバンの中からコピー用紙の束を取り出すと、
「それでは、竜道寺さん」
「はい」
「こちらを先に渡しておきます」
岩本警視からコピー用紙の束を受け取った竜道寺。
「竜道寺さん、どうぞお座りになって読んでください。谷口君、コーヒーを持ってきてくれたまえ」
「――え?」
「聞こえなかったのかね?」
「――わ、分かりました」
渋々と言った様子で部屋から谷口警部補が部屋から出ていく。
その様子を横目で見送った竜道寺は、心の中で『何か、問題がありそうね』と、心の中で溜息をつきながら渡されたコピー用紙に目を通していく。
「これは……、私たちが向かう島の情報ですか?」
「ええ。公的にはではなく、警察庁上層部のXファイルになります」
「Xファイルって、噂ではなかったのですか? 以前に、警察官学校で、そのような噂を聞きましたが……、眉唾物だと……」
「眉唾物でしょう」
「――え?」
「だから眉唾物だと言っているのです」
少し眉を顰めて神経質な表情に若干の苛立ちを現した岩本警視は、肩を竦めて呟いた。
「そもそも考えてください。この化学全般の時代に、Xファイルという超常現象を取り扱っているなんて普通にありえないと思いませんか?」
「それは――」
竜道寺は、何と説明していいのか迷ったところで――、
「ああ。申し訳ない。竜道寺さんのことを揶揄して言っているわけではないのですよ? 最近は、ジェンダーとかありますからね。タイで手術をして女性になったことを正直に話したくない。それで、神の力とか意味不明な話が流れてきたのは、私は、そういうことは気にしませんから」
「え? ――で、でも……」
「大丈夫です。私は、LGBTQに配慮していますから」
「はあ……」
「それよりも、竜道寺君も災難でしたね。このような訳の分からない仕事に回されるなんて」
「――と、言いますと?」
「今回のことは、大阪威信会の吉田知事が肝入りで進めている案件なのです」
「そうなんですか」
「ええ。もちろん、私たちにも見返りはそれなりにありますから」
「見返り?」
「それは、資料を見て頂ければ」
「分かりました」
竜道寺は岩本警視正から渡された資料に目を通していく。
「場所は、淡路島と小豆島の中間ですか……」
「ええ。公的資料というか、公的資料扱いされない竹内文書には、1400年前に島が突然に出現したとされています」
「1400年前ですか」
相槌を打ちながら資料に目を通していく竜道寺。
「そうです。そして、最後に島が確認されたのは昭和20年8月とされています。そのあとは、陰陽庁という怪しげな組織により海域は封鎖、現在に至るとされています」
その陰陽庁という言葉に、竜道寺は苦笑いを心の中で行う。
どうやら、岩本警視正というのはリアリストであり、現実主義者であり、あまり他人の意見を聞くタイプではないと判断したからの対応であった。
「あの、それでどうして私だけに先に話をすることにしたのですか?」
「そうですね。高校生を上司に持つ竜道寺さんなら理解してくれると思いまして」
「それは桂木警視監のことですか?」
竜道寺の『桂木』という言葉を聞いた瞬間、岩本警視正の眉間に皺が深く刻まれる。
「ええ。今の総理は何も理解してない。そうは思いませんか? 竜道寺さん」
「どういうことでしょうか?」
話の流れがいきなり変わったことで岩本警視正が何を言いたいのか思考した竜道寺に向けて岩本は、
「高校生のことですよ! あのほら吹きの!」
「ホラ吹きですか?」
「ええ。今の総理は、楠山検事総長を敵視していることは知っていますか?」
「それは初耳です」
「でしょうね。楠山検事総長は、夏目総理の前の総理大臣である岸本が自身と自民党議員の不正を暴かないことで昇進を約束したという話がありましたから」
「それで、現日本国総理大臣は検察トップと折り合いが悪いと?」
「ええ。不正には、煩い方ですから」
「なるほど……」
不正に対して問題視していることは良い事なのでは? と、竜道寺は一瞬思考したが、それは口に出すと色々と角が立ちそうなので口にしないことにした。
「我々としては、警察内部の問題を洗い出すために、高校生を警視監に据えるという前代未聞の人事を総理が行ったと考えています」
「それは良い事なのでは?」
「竜道寺さん、少しは考えてから発言した方がいいと思いますよ? 同じ東大法学部卒業でキャリア組なのですから」
「……」
黙り込む竜道寺に満足げに頷く岩本警視正の口が開く。
「正直、神の力を手に入れた高校生を国の管理下に置くという事自体、おかしな話なんですよ。科学が全ての支配する時代ですよ? 何の努力も、挫折も、後悔もしたことがない! そんな高校生が、選ばれるはずなんてないんですよ。そこで――」
「そこで?」
「竜道寺さんに協力してもらいたいのです」
「協力?」
「ええ。あなたは、桂木という何の才能もない両親も既に他界しているゴミ同然とそれなりに親交があるのでしょう?」
「(そこまで言うの?)」
「――で! 総理を引き摺り下ろすための何か材料を探して私たちに提供してもらいたいのです。もちろんタダとは言いません。それなりの謝礼は用意しましょう。警察官が一生働いても手に入れられないだけの金品など。性転換手術費用も安くはないでしょう? どうでしょうか? もちろん、すぐに結論は出してくれなくても結構です」
そこまで岩本警視正が口にしたところで、ドアが開くと会議室に谷口警部補がコーヒーを3つ、お盆に載せて姿を見せた。
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