第778話 都との会話(1)
――私立山城総合病院から改名された桂木総合病院の一室。
夜の帳が開けたことで日差しが病室内をカーテン越しに薄っすらと照らす。
病室は個室であり、ベッドの上には50代前半の初老の女性が目を閉じて寝ていた。
―――カツカツカツカツ
朝方の病院内で靴音が響く。
廊下側から小走りで走ってくる存在。
10秒程度で、病室のドアがガラッという音と共に横へとスライドして開く。
「ハァハァハァハァ。桂木警視監!」
「神谷か?」
「はい! ――そ、それで! お母さんは!?」
「今先ほど、治療が終わったところだ」
「本当ですか!?」
「ああ」
「――で、ですが! 進行性骨化性線維異形成症に治療方法は――」
「そのくらいは遺伝子の設計図を修正すればいいだけの話だ」
俺は、肩を竦めて答える。
反物質生成を行う際の計算式を比べたら人体の設計図を遺伝子情報から読み取って修正するなんて遥かに難易度の低いことだ。
「遺伝子の設計図って……。――で、ですが……ぐすっ――」
「部下を守るのは上司の仕事だ。それに、お前は十分に俺の力になってくれているからな」
「ですが、私は桂木警視監の情報を彼らに――」
「脅されていたのなら仕方ないことだ。――それよりも、もうすぐ神谷」
「はい」
「お前の母親は、もうすぐ目を覚ますはずだ」
「え? ――で、でも、ずっと意識が……」
「お前、俺を誰だと思っているんだ? 神の力を手に入れた男だぞ?」
「……」
思わず無言になる神谷。
そんな彼女の肩に手を置く。
「桂木警視監!?」
「骨になっていた期間が長い筋肉を全て骨から筋肉繊維へと作り替えた。しばらくは、感覚が病体状態に引き摺られると思うから、少しの間は、お前が私生活をサポートしてやれ」
「――ですが! それでは、桂木警視監の仕事のサポートは……」
「大丈夫だ。その間は、陰陽連の連中から力を貸してもらうからな」
「くすっ。そこは、桂木警視監がご自身で頑張るとは言わないのですね」
「当たり前だろ。俺に事務能力を求めるな。お前の母親が私生活に対して、不便を覚えなくなってから一生懸命、俺の為に働いてもらう。だから……、それまで有給でもとっておけ」
神谷の横を通り抜け、俺は病室から出た。
自宅がある公団住宅に到着し、敷地内に入ると電話が鳴る。
「師匠!」
「何だ? 竜道寺。随分と早い起床だな?」
「今は千葉県警察本部です! かなりの書類が、日本国政府から流れてきていまして、あのあと、千葉県警察本部に登庁してから、先ほど出ていった神谷警視長の代わりに書類の整理をしています!」
「そ、そうか……」
日本国政府からの大量の書類か。
つまり、それは俺が色々と報復活動をしたことが、政府の耳に入ったということだよな?
それを竜道寺が処理していると。
「分かった。すぐに行く。お前は、さっさと大阪へと向かえ」
「いいのですか?」
「ああ。純也とは仲良くやってくれ」
「分かりました」
「事件の詳細については、高松警察署内に内閣府直轄特殊遊撃隊があるから、そこの連中に確認してくれ」
「はい」
「はぁー」
電話を切ったところで思わずため息が出る。
だが、自分が仕出かした後始末だ。
仕方ない。
「まずは書類の確認だな」
俺は自宅のある公団住宅の敷地内から回れ右して出てから、空へと舞い上がるために身体強化を行おうとしたところで、
「優斗――」
団地から姿を見せ――、何とも言えない表情で俺に呼びかけてくる都の姿があった、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます