第774話 お前は罪の数を覚えているのか?(4)

 ――広域指定暴力団、山本組の本部。

 

 そこは大阪市の郊外にあり、3000坪を優に超える巨大な邸宅であった。

いま、そこには多くの黒塗りの外車が集まっており、大勢のヤクザが集まりつつあった。

 

「どういうことじゃ? いきなり招集がかけられるなぞ! オジキが何か、また問題でも起こしたのかいの?」


 隻眼の身長190センチを超える筋肉隆々な男が不満げに言葉を口にする。


「わからん。じゃが、今、本家、山本組傘下の組が次々と襲撃にあっているようじゃ」

「ほう? 警察か?」


 50歳前後の白髪交じりの体格のいい身長180センチ前後、紫のスーツを着た男の発言に、最初に口を開いた男が面白おかしそうに尋ねた。


「そこは本家組長が説明するらしい。ただ、警察ならわし等と繋がっている警察官僚が情報を事前に流すはずじゃ」

「つまり警察ではない? それならマフィアか?」

「大陸のマフィアも同時に襲撃されていると部隊から連絡が入っている」

「それはますますわからんの。どうなっておるんじゃ?」


 日本全国で多大な影響力を持つ広域指定暴力団――、山本組。

その構成人数は10万人を超える。

そんな本家の中でも、幹部の二人の会話は、周囲に集まっていたヤクザたちに聞こえていたが、要領を得ない会話の内容に誰もが浮足だっていた。

 

「8代目組長が幹部の皆様を呼んでおります」


 会話をしていた男たちが一斉に、視線を向けた。

そして伝令役の男は頭を下げて――、「早急に集まるようにとのことです」と、続けて言葉を続けた。

 集まっていた20人の幹部は、全員が目を合わせると何か重要な事態が起きたと察し、山本組の幹部集会の部屋へと向かう。

 幹部集会の部屋は、学校の教室の3倍ほどの広さがあり、椅子が30脚ほど並んでいた。

 その椅子は、それぞれ座る場所が決まっておりヤクザの幹部たちは次々と座っていく。


 全員が座ったところで、上座に座っていた70歳半ばの男が山本組傘下の組長たちを一瞥し口を開く。

 

「全員、集まったようだな。これから、総会を開く」


 その言葉に、幹部集会に集まっていたヤクザの幹部たちは一斉に目配せしあったあと、一人の幹部が口を開く。


「総長、全員と言いますが……、あと11人ほど到着していないようですが――」


 幹部の言葉に、総長と呼ばれた山本組の組長が眉間に皺を寄せて口を開いた。


「ここに集まっていない参加の組頭は、すでに全員が殺されたようだ」


 殺されたようだという言葉に、集まっていた個々の組頭たちが一斉に息を呑む。

 日本国内だけでなく世界でも山本組――、そして傘下の幹部が持つ組は闇の世界では知らぬモノがいないほどの知名度を誇るからであった。


「総長! どこのどいつが山本組本家に戦争を仕掛けてきたんですかい!」


 まったく別の組の頭が声をあげる。

 

「それは――」


 総長が、言いかけたところで、100部屋以上もある3階建ての大邸宅が揺れた。

 それも地震とは全く異なる振動。

 それと同時に、ドアを蹴破るばかりに一人の若いヤクザが室内に駆け込んできた。


「おじき! 大変です! 襲撃者です!」


 その言葉に、幹部たちは駆け寄る。


「何があった?」

「わかりません。ただ……、何かが空から降ってきたかと思ったら一瞬で10人近くの仲間がバラバラに――。自分は、アニキからオジキ達に報告するように命令を受けて――」


 その若い組員の言葉に、幹部たちは一斉に外へ確認するために向かう。

 走りながら、それぞれ拳銃を手にするが、建物から出た場所で彼らは目を見開き足を止めた。

 そこには――、


「ほんと、ゴミが多いな。そう思うだろ? オマエラも――」


 ヤクザの総本部。

 日本全国で10万人を超える構成員を持つ日本最大の広域指定暴力団。

 誰もが! 警察ですら、恐れ慄き近づくことすらできない悪意の巣窟であり悪の聖域。

 その場所は、いまでは数百人の死体が散乱していた。


「撃て! オジキ達に近づけさせるな!」


 未だに残っていた構成員たちが、グロッグのトリガーを引く。

 火薬が炸裂する音と共に、銃弾が少年へと飛来するが、その銃弾は、少年の手に弾かれた。

 それを皮切りに次々と銃弾が100人近いヤクザから撃たれるが、その時には少年の姿は掻き消えており、それと同時に40人近いヤクザの首が空中を舞う。

 遅れて胴体から噴水のように血が吹き上がり、ヤクザの大邸宅の庭を赤く染め上げていく。


「――な、なんだ……あれは……」


 一人の幹部が、何が起きたのか分からないといった様子で言葉を口にした。

 ただ、その疑問が氷解する暇もなかった。

 幹部以外の700人を超えたヤクザたちが物言わぬ屍と化すのに10秒もかからなかったからであった。


「――さて……」


 暗闇の中、近づいてくる存在。

 徐々に、その輪郭は明らかになってくる。

 そしてスポットライトの中に見えた存在は――、何の変哲もない普通の高校一年生の少年であった。


 そんな少年は口を開く。


「なあ、教えてくれよ? 俺の大切なモノに手を出そうとしたのはどいつだ?」


 一歩一歩、砂利を踏みしめるようにして歩く少年。

 落ち着きを払ったような――、機械のような素振りに死線を何でも潜り抜けてきたヤクザの幹部たちは一瞬で恐怖を覚えたのであった。


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