第773話 お前は罪の数を覚えているのか?(3)
記憶を脳から読み取る。
途端に流れ込んでくる記憶の奔流。
――痛いよ! お母さん! 助けてよ!
一人の女子高生が、何人もの様々な年齢の男たちに凌辱されている映像が見える。
――やめてくれ! 娘には手を出さないでくれ!
40代の優男が繁華街で、連れていかれる女子高生を助けようと駆け寄るシーンが見えるが、何人ものガタイの良いヤクザのような男たちに別の車に乗せられて連れ去られるシーンが見える。
――紅林さん、どうしましょうか?
――娘はオークションにかける。久しぶりに生きの良い生娘だろう? 父親は口封じをしておけばいい。
――山に?
――薬品で死体は溶かしておけ。ああ、使える臓器は抜き取っておけよ?
――分かりました。
紅林が、そう指示する場面が記憶の欠片として見える。
場面は、また暗転する。
――助けて……。
――誰か助けて……。
何人もの裸体にひん剥かれた少女たち――、10代前半から後半と言った年頃の女子に、無数のスポットライトが充てられている中で――、
――3000万! 4000万!
次々とオークションのように金が掛けられて落札されていく中で、首輪をつけられた裸体の少女たちが男たちに奴隷のように連れられて落札者に渡される。
そして、焼きゴテを直接! 体に当てられてジュウウウウという音と共に飼い主になったであろう男たちのナンバーが刻まれていく。
黒い室内――、煙たく充満する甘ったるい香水のようなモノ。
それと少女たちの悲鳴に鳴き声。
それは、まさに阿鼻叫喚と言った地獄の様子を呈していた。
その様子に、紅林を初めとした男たちは、愉悦の表情をし――。
――紅林オーナー、今回も盛況のようです。
一人の燕尾の黒服を着た男が恭しく頭を下げると、そう告げた。
紅林は、10代前半と言える少女に奉仕をさせている中で、
――うむ。
――さすがは紅林オーナー。洋上の船舶でこれほどのことをするとは感服です。
――当たり前だ。さすがに、これだけの見世物を国内でするわけにはいかんからの。今回は、岸本内閣からも何人もの閣僚が来ているのだ。下手を打つなよ?
――もちろんです。それに日本国の警察組織――、32人しかいない警視監が19人も人身売買に関わっているのですから。
――おい、それは……。
――申し訳ありません。
――次はないぞ?
紅林の威圧ある声に震え上がる男は、静かに紅林の機嫌を損ねないように頭を下げていた。
――そこからも、次々と情報が湯水のように流れてくる。
躾と称した洗脳に近い虐待に反抗するような素振りを見せた二人の女性を大勢の少女たちの前に殺害し四肢をバラバラに目の前で解体した場面。
場面は飛び3人の女性を殺したこと。
中学生の担任と裏で繋がり20人の中学生女性たちをバス落下に見せかけて拉致し、その際に逃げようとした中学生女子を4人殺害し、一人が重体になったあと、殺し山中に埋めたこと。
そんなことを何十年もキャリア警察官として行ってきた紅林という男の記憶。
常人が見れば、それは到底、直視できないことであった。
「なるほどな……」
紅林の脳から手を離すと同時に、頭蓋骨を修復してやる。
「ハァハァハァ……、貴様っ! 何をした!」
親でも殺されたような憎しみに満ちた目で俺を見てくるが、俺が膝をついたままの紅林を見ろしたまま――、
「お前の記憶は読ませてもらった」
「なんだと!?」
「あれだな……」
俺は肩を竦める。
異世界でよくあったことだ。
異世界では奴隷に対してもっと酷い事をしている貴族も、商人も、権力者もいた。
だからこそ――、
「お前は、罪を償う必要があるな」
「罪だと? 儂が何をしたというのだ! そんな証拠がどこに!」
「俺は思わずため息をつく」
コイツは何を勘違いしていると。
「別に日本国の法に照らし合わせて罪を償えと言ってはいない」
「――なら、なんだと!」
「お前には、娘が3人と息子が2人に、孫娘が5人に孫が4人いるのか……。中々な大所帯じゃないか」
俺は笑みを浮かべる。
「――なっ! ――き、きさまっ! 本当に記憶を!」
「だから言っただろう? ――で! お前は、どれだけの人間を食い物のしてきたのか覚えているか?」
「そ、そんなこと――」
俺は後頭部を搔く。
「覚えてないよな?」
「何?」
「覚えているわけがないんだよ」
俺はそうつぶやく。
そう他人の痛みが分かるやつは、人の人生を食い物にするようなことはしない。
人の痛みが理解できる奴は、助けを求める声を魚に愉悦に浸るような真似はしない。
他人の不幸を自身で作り出し、それに対して満足気に笑えるような奴は――、
「人はな、てめーが理解できるモノ以外に関しての記憶は、非常に曖昧なんだよ。だからこそ、酷いことも出来る。なぜなら、自身が認識しないから。だからこそ、イジメという曖昧な単語で他人を傷つけることが容易くできる」
俺は笑みを浮かべたまま、紅林の60代の老人特有の衰え始めた肩に手を置いたあと、鎖骨を握り潰す。
――メキッ! バキッ! と、言う耳障りな音が周辺に鳴り響いたあと、
「あああああああああああっ」
本当に耳障りな紅林の痛みに耐えかねた絶叫が周囲に木霊する。
「きさまっ! きさまっ!」
「痛いよな? 痛いよな? 痛いよな?」
俺は紅林の首を掴むと持ち上げる。
それと共に自身も立ち上がる。
「――なあ? お前が、散々! 被害者に対して行ってきた仕打ちがこんな軽いことで済むわけがないよな?」
「ば、ばかな……。日本は法治国家――」
「その法治国家の法を先に破ったお前が、どの口で何を言う? それに、俺は最初に言ったよな? お前には、人権はないと」
俺は、虫でも見るような目で紅林を見る。
「だから……、お前の罪は俺が裁かないとな……。日本の法なんて甘い対応は俺はしないぞ? てめーの家族から親類縁者まで全員を殺す。一匹も残さない」
「ありえない……。たとえ儂が悪かったとしても家族にまでは――」
「何を言っている? 貴様もやっただろう? それに日本の法は甘すぎる。てめーが不正で他人を不幸にして得た金銭で家族は良い思いをしたんだろう? だったら、連帯責任じゃねーか? つまりだな……」
「貴様には人の心がないのか……」
「おいおい。そんなモノを持っていたら異世界では生きてはいけないぞ? 合理的に――、必然的に――、敵は殲滅するのが当然だろう? 残念だったな? てめーの仲間から親類縁者――、老若男女問わず皆殺しは確定だ。まぁ、貴様は――」
俺は大気中の原子を弄り人が辛うじて入る程度の壺を作り出す。
「永久肉達磨牢獄の刑に確定だがな」
紅林の首を掴んだまま、老人の遺伝子を改竄する。
途端に紅林の体は何度も跳ねる。
「ギアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も――、
激痛の中で――、耐えがたい痛みに失神と覚醒を続けながらも肉のスープと成り果てていく紅林の体は、白い陶器の壺の中にボトボトと落ちていく。
腐った糞尿のような匂いが周囲に漂い始めたところで男の最後の部分――、頭頂部――、頭の部分が崩れて壺の中へと落下する。
すると、すぐに白いウジのような虫が、紅林の肉スープの中に無数に生まれては、肉スープを食いちぎり爆散し、または生まれて、それを食するというループが始まる。
「ああああああああああっ、ダズゲテエエエエエ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ゴロジテグレ。ナンデモ、ハナズ。ナンデモ――」
「お前が、全ての罪を告白したら死ねるようにしてある」
まぁ、真っ赤なウソだがな。
「――さて」
紅林の記憶を読み取った連中を一掃しないとな。
「しかし、相手がクズで本当に助かったな」
手心を加える必要が一切ないというのは楽でいい。
さあ、皆殺しの時間だ。
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