第763話 桂木優斗の給料額 第三者Side

「それにしても、ベッドの価格が高いね」


 デパートの8階で、畳型のベッドを見ていた胡桃が呟く。

 大手総合デパートというだけあって多種多様なベッドが展示はされているが、そのどれもが価格20万円を超えており、畳型のベッドに至っては40万円近くしていた。

 まだ中学生の胡桃としては、その価格は高すぎると言ったイメージを抱いていたが――、


「たしかに……高いですね」


 他の寝具を見ていた竜道寺も、胡桃が上げた声に反応し頷く。

 一応は、公務員である竜道寺であったが、警視という身分であっても給料はそこまで高くはない。

 何せ、税金で手取りが取られていくからだ。


「んー、で? 買うの? 胡桃」


 そして、この中でベッドの価格に驚いていないのはエリカだけであった。

 彼女の給料は基本的にユーロで支払われている。

 なので円安の現在では、エリカの月収は100万円を優に超えており、外国人労働者と言うこともあり、海外には家族がいることになっているため控除が受けられる形となっていて殆ど税金が給料にかからない。

 つまり、この中で一番稼いでいるのはエリカという形になるために、エリカは買うかどうか胡桃に聞いたのであった。


「買わない! 買わない! だって! すごいよ! これとか50万円とかしているから!」

「そう。そういえば、竜道寺」

「ん?」


 そこでエリカが竜道寺の方を見て話しかける。


「竜道寺はベッドを買う?」

「屋上でテント暮らしをしているから」

「そういえば、竜道寺さんってお風呂はどうしているの?」

「師匠が作った世界には家があるので、そちらで済ませています」

「胡桃、よくわからないんだけど家って、そんなに簡単にできるものなの?」


 誰もが疑問に思っていたことを口にする胡桃。


「それは、規格外の師匠ですから」

「そうなんだ……」


 規格外という言葉に、胡桃は追及することを避けた。

 どうやら彼? 彼女? も、兄のことについては詳しくは知らないという事がわかったからであった。


「それにしてもベッドが高いね」

「そういえば、先週は給料日だったのですが、その給料でも?」

「うーん。銀行口座は見てないけど……」

「そうなのですか……意外というか」

「手持ちで足りていたから」

「胡桃さんは、節約上手なのですね」

「節約というか、お父さんもお母さんも連絡がつかないから」

「申し訳ありません。不躾なことを――」

「気にしないで。でも、お兄ちゃんってそういえば竜道寺さんと同じ警察官なんだよね?」

「はい」

「そういえば、マスターは幾ら稼いでいるのか」


 ふと疑問に思ったかのようにエリカが口にする。

 それは彼女なりの好奇心であった。


「見てみる?」

「ぜひ」


 総合デパート「そごう」の1階まで下りた3人は、大手総合デパート1階に居を構える日本最大のメガバンクの一角へと足を運ぶ。

 そこにはATMが置かれており胡桃はキャッシュカードで残高照会を行うが――、


「いち、じゅう、きゃく、せん、万――」


 胡桃は自身の目を擦る。

 何度も擦り――、ATMの画面に表示されている金額を何度も確かめる。

 そこには、8兆5800億円という膨大な金額が書かれていた。


「えっと……機械の故障? 入金ミスなのかな?」


 あまりにも、あまりな金額に対して胡桃は現実を受け入れられることが出来なかった。




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