第758話 1000カラットのダイヤモンド
技の修行を初めて千年が経過したところで、ようやくある程度、形になってくる。
そこで俺は一旦、修行を切り上げる決断をする。
「今日は、ここまでだ」
「――え? まだ技の修行が始まってから千年くらいしか経過していませんけど?」
「その認識が間違っている」
「え?」
竜道寺が良く分からないと言った雰囲気で首を傾げる。
まぁ、修行内容を反復――、そして修行内容を整理するために定着記憶を取捨選択して、意味記憶をリンクさせているのだから、竜道寺の感覚としては千年でも1年程度しか過ぎていないと誤認している。
だからこそ、適度なところで元の世界との時間的な流れの祖語を戻さないと問題になる。
簡単に言うのなら年を経れば経るだけ一日の流れが速くなるのと同じこと。
それを意識的に改善し修正することは、閉ざされたパンドラの箱の世界に作られた次元の迷宮では無理だ。
俺も数千回は異世界で同じような経験がある。
「とりあえず、一度、元の世界に戻るぞ」
「――は、はい!」
「伊邪那美も、それでいいな?」
「桂木優斗、お主が、それで良いというのならば妾が反対することではないじゃろう?」
「そうだな」
次元の迷宮――、パンドラの箱内で、空間を切り裂き外へと繋がる道を作り出す。
途端に、用済みとなった次元のダンジョンが崩壊していく。
「――さて、ほら! さっさと出ないと時空の狭間に取り残されるぞ?」
俺の催促に、伊邪那美と竜道寺が出口へと姿を消す。
俺も続いて外へと出ると、そこはリビングで――、
「あ、あれ? ――も、もう出てきたのですか?」
パンドーラが、驚いたような素っ頓狂な声色で話しかけてくる。
「ああ。竜道寺、お前は今日はゆっくり休んでおけ」
「は、はい」
「白亜」
ソファーに座っていた白亜も、口を開けてこちらへと視線を向けてきていた。
「――は、はいなのじゃ」
「伊邪那美とパンドーラを送ってくれ」
「わかったのじゃ。それよりも、ご主人様」
「どうした? 白亜」
「今、結界空間に入ったばかりでは?」
「ああ。今回は少しばかり特殊でな」
――次元の迷宮。
そこは、異世界に人間のままで転移してきた者だけが入ることが出来る場所であり、他の迷宮とは異なる。
ただ、それを教えると異世界のことも説明する必要が出てくるから、告げる必要はない。
「そうなのかえ。分かった」
白亜は、ソファーから立ち上がると、リビングからベランダへと移動する。
パンドーラも、伊邪那美も帰宅するので、当然、白亜のあとを付いていくことになるが――、
「伊邪那美」
「なんじゃ?」
俺は伊邪那美の後ろから声をかける。
「すまないな。いつも無理を言ってしまって」
たまには労いの言葉も必要だろう。
だが、言葉だけでは数千年という対価には聊か足りないか。
俺は空中で原子を結合させていき一つのダイヤモンドを作り出す。
大きさは1000カラットほど。
「ふん。貴様の頼みは聞かぬ方が問題じゃからのう」
「まぁ、それはそうなんだが、働いてくれた分は賃金を払わせてもらわないとな」
俺は自身が作り出したダイヤモンドを伊邪那美に放り投げる。
ダイヤモンドを受け取った伊邪那美は、マジマジと宝石を見て目を細める。
「これは、また立派なモノじゃのう。じゃが、これは売れんのう。だが、神たる妾に奉することは悪くはない。頂いておくとしよう。では、また何かあれば連絡するとよい。それよりも明日はどうするのじゃ?」
「明日は、一日、竜道寺には休んでもらう。こちらの世界に感覚を慣らす必要があるからな」
「そうか。まぁ、良いが――」
伊邪那美は、コクリと頷く。
俺と伊邪那美の会話が終わったのかを確認するかのように白亜が俺へと視線を向けてくる。
もちろん俺は頷くと、白亜の妖術により、白亜自身と伊邪那美とパンドーラの姿がベランダから消えた。
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