第757話 組手 第三者Side
竜道寺が、伊邪那美の料理を食べ桂木優斗が待っている場所へと戻る。
迷宮内とは思えないほど、広く広大なドーム状の空洞は、高さは300メートルを超えており、直径は、それに応じて広く――、空洞には様々な木々が生えていたが、木々の種類は、現代の地球には存在しない独特の種が存在しており、まったく異なる生態系を築き上げていた。
そんな大空洞の中心に、桂木優斗が建てた2階建ての家がポツンと建っており、家の周囲には無数のモンスターの死骸が転がっていた。
「師匠」
「食事は終わったのか?」
高く積まれたモンスターの死骸の前に立っていた竜道寺の師である桂木優斗は、平坦な――感情を押し殺したような声で竜道寺に応じると手を振るう。
すると、桂木優斗の右手に付着していた緑色の血が飛び散り、地面へと付着――、迷宮内の地面を溶解すると、その下の石畳すらジュッ! と、蒸発させた。
「――なら、修行の再開だ」
「はいっ」
竜道寺は、桂木優斗の手に付着していた強力な酸を意識しながら、『疾風雷神』を発動させ距離を取る。
「かかってこなければ何の意味もないぞ?」
「師匠、手に溶解液が――」
「問題ない。細胞が溶解するのなら、溶解よりも早い速度で肉体の細胞を分裂させて修復させればいいだけの話だ」
その言葉に竜道寺は、緊張の糸を数段階一気に引き上げる。
ブルースライムよりも遥かに強力な酸。
それを手に纏わせていた己の師である桂木優斗の心身には、一切の傷がない。
そのことに気が付いた竜道寺は、自分の肉体再生速度とは、まったく次元の違う速度で、師は肉体を再生させていることを理解していた。
だからこそ、距離を取りつつ、師である桂木優斗が手に纏わせている液体をどう対処すればいいのか考えていたのだが――、
「まったく――」
竜道寺の視界から、桂木優斗の姿が消える。
「――ッ!」
途端に、うなじに寒気を感じた竜道寺は、先ほどまで立っていた場所から後方へと飛ぶ。
それと同時に竜道寺の視界が、細長い何かを見た。
途端に喉元からせり上がってくる鉄錆の味。
耐えることも出来ず「カハッ!」と、血を吐き出す竜道寺は、いつの間にか目の前に姿を現していた桂木優斗の顔面に向けて右抜き手を放つが、その抜き手は、桂木優斗が展開していた『疾風雷神』の――、その余波により弾かれる。
「まだまだだな」
師である桂木優斗が展開していた『疾風雷神』の数億ボルトの余波により、一瞬にして右手だけでなく二の腕まで炭になり砕けた様子と言葉に、竜道寺は後ろに飛びのいた体勢で体を左回転させながら中段回し蹴りを放つが、師と弟子の身体強化術が接触した際に、未だに練度が低い身体強化をしていた竜道寺の体は空中で弾けるようにして吹き飛ぶ。
様々な木々の幹を粉砕しながら、100メートルほど空中を舞ったあと、最後には大人が10人掛かりで手を繋いでようやく一回りできるほど巨大な木の幹にめり込み止まった。
「カハッ!(まずい……追撃がくる……。回復の呼吸を――っ!)」
スウウウウハアアアアア。
深く呼吸をすることで、大量の大気を肺に取り込む。
それにより桂木優斗が作り出したアーティファクトが反応し、竜道寺の肉体を修復させていく。
その間、1秒にも満たない時間であったが、回復が終わる前に竜道寺は、埋もれていた幹から左腕一本だけで脱出する。
それと同時に、巨木の幹が粉々に粉砕される。
それは不可視の攻撃――、ただの掌底から放たれた所謂、空気砲と言うモノ。
「――ッ!」
竜道寺は、その攻撃を何度も食らって死亡し、肉体に刻み込んでいたからこそ咄嗟に避けることが出来ていたが――、
「スウウウウウッ」
戦闘の呼吸――、何度も繰り返し体に覚えさせてきた呼吸法。
それにより、刹那の時間で肉体を強化する。
「疾風雷神っ!」
地面を強く蹴り、桂木優斗の元へと直進し、上段蹴りを放つが、その蹴りは空を切る。
「実践で蹴りは極力使うな! 何度言えば分かる!」
叱咤の声と共に竜道寺の右足があらぬ方向へと曲がる。
途端に、強い痛みが精神を蝕むが、それを無視して竜道寺は体を空中で回転させる。
それも無理やりに。
それにより、右足からバキバキと言う骨が折れる音と共に常人ならば即死してもおかしくないほどの痛みが脳裏を焼くが、それを無視しながら左蹴りを放つ。
蹴りは、桂木優斗の左手のひらで受け止められた。
「ふむ……」
桂木優斗が、竜道寺と距離を置くと満足そうに頷く。
「少しは、まともに動けるようになってきたな」
「そうですか?」
「ああ。それじゃ、技の修行に入るか」
「――え?」
「何だ? 技の修行に入るのが嫌なのか?」
「――い、いえ。一撃入れていなかったので……」
「まぁ、それなりの動きができるようになってきたからな。組手と同時並行して技の修行に入るぞ?」
「あ、はい!」
そんな二人の組手の様子を見ていた伊邪那美は呆れたような表情で「もはや神々の闘争に近いのう」と、突っ込みを一人入れていた。
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