第755話 組手修行
「夢を? また不吉なことを……」
ジト目で伊邪那美が俺を見てくる。
その目には、まったく! 一切! 容赦ないレベルで、俺への信頼感は見て取れない。
まぁ、信頼を築くようなことはしてないから仕方ないが。
「師匠。夢をどうするのですか?」
そんな空気の中で、さすがに何をされるのか気になったのか竜道寺が横から聞いてくる。
「そうだな。夢というのは、どういう働きをしているのか知っているか?」
俺は竜道寺の方を見て確認する。
「たしか記憶の整理と定着だと以前に聞いたような……」
「そうだな。――で、だ。今日から行うのは、余計な戦闘における無駄な記憶――、そして経験の簡略化による圧縮をお前が寝ている間に行うってことだ」
「それって人格に与える影響なぞは大丈夫なのか? 桂木優斗」
「ああ。問題ない。余計な記憶を削除するとかそういうことではないからな。人間は、嫌な記憶や経験があったら、その時に受けた感情や不必要な記憶や経験を断片的に残して忘却するだろう? それと同じことをする。まぁ、どういう戦闘知識や経験が必要かどうかの取捨選択は俺が行うから、今までみたいに自然的な夢とは異なるが結果的には同じになると思う」
「思うって……本当か?」
「ああ。……たぶん」
「たぶん……か……。良いのか? 竜道寺よ」
「師匠に任せます」
「そうか。――なら、今日からするか」
「はい」
記憶の取捨選択と圧縮――、さらに外部の時間との差により修行を開始する。
そして修行をすること8000年が経過し――、
「疾風雷神っ!」
ようやく、体内の生体電流を自身の思考の上で、竜道寺は発動できるようになった。
ただ、それは発動を任意に行うことが出来るようになっただけで、自身の体内で生体電流を増幅させて扱えるようになったわけではないが。
あくまでも腕輪の補助があって――での上だが。
「ふむ……。ようやく入り口に立ったところか」
竜道寺の肉体に薄っすらと薄氷にも似た磁場が展開されているのを見たところで、
「どうですか? 師匠」
「それでは今日から、俺と組手でもしてみるか?」
「――え?」
「これからは、その疾風雷神を維持したまま、戦闘時における動作を実践形式に沿って修練を行う」
竜道寺が、ホールの中央で疾風雷神を身に纏っているのを確認しつつ、俺は体内の生体電流を操作し『疾風雷神』を発動させる。
目の前の竜道寺が薄氷の如く紫電を纏っているのと違い、俺の体は、分厚い紫電の生体電流に覆われる。
「では、まずは俺の攻撃を受けるか避けてみろ!」
「――ま、待ってください! し、師匠! 師匠の攻撃を私が受けるなんて!?」
「問答無用だ」
一足飛びに竜道寺との距離を詰める。
それと同時に、連動するかのように右上段回し蹴りを、竜道寺の頭に向けて放つ。
大気には、紫電の残像だけが残り――、音速を超えた回し上段蹴りがガードをしようとした竜道寺の両手を吹き飛ばし、その脳天を打ち抜いた。
途端に、迷宮内の床に平行に沿って吹き飛び、迷宮内の壁に体全体から衝突する。
「なかなかいい反射神経だ」
壁に衝突し、土埃が巻き上がった中からユラリと竜道寺が立ち上がるのを確認する。
「防御が何とか間に合いました……」
「そうだな。まぁ、お前が反応できる速度で蹴りを放ったのだから避けて反撃してくるくらいは期待したんだがな」
「――さすがに……それは……」
「まぁ、いい。時間は、まだまだあるからな。ほら! 今度は、お前の方から攻めてこい! 一撃でも、俺に入れたら、この組手修行は終わりだ」
「分かりました」
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