第751話 呼吸法と毒の克服
「もう一人の私ですか?」
「ああ。その腕輪には、お前の遺伝子情報なども書き込んでいるからな。だからこそ、お前を主として――、所有者として認めて自身の分身だと思い力を貸す」
「分かりました」
「ああ」
食事を終えたあとは、すぐに竜道寺は出現したブルースライムを相手に戦うことになる。
「良いのか? あれだけの説明で」
「ああ。問題ない」
俺は、竜道寺の戦闘状況を見ながら答える。
「問題ないとは、どのようなことか?」
「生物の体と言うのは、怪我をする時よりも怪我をしたあとの方が感覚が研ぎ澄まされ再生のために自身の肉体の修復に過敏に反応するようになる」
「それは、そうかも知れんが……。わざと肉体を痛めつけるような真似をせんでも良いのではないのか?」
「俺がいる時なら負けても問題はない。だが、俺が居ない状態での死は確実な死だ。そして戦闘を行う上で、痛みや怪我からは逃げることは決して逃げることはできない」
「それは、そうじゃが……」
伊邪那美が、俺を見ずに竜道寺を見て呟く。
「もっと違った方法があるのではないのか?」
「ない。そんなモノは才能がある奴が歩める限られた道だ。だから――、凡人は泥臭く足掻くしかないんだよ」
そう。その細胞一つ一つに、経験を詰め込む。
戦場において戦いにおいて選ばれた奴に勝つには、それしかない。
危機管理意識。
危機感知能力。
それらを凡人が手に入れるためには、経験で手に入れるしかない。
誰かが言っていた。
――賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶと。
残念ながら、俺も竜道寺も賢者ではない。
愚直に修練を積むしか方法がない。
積むしかないのだ。
――修行が始まってから1年が経過し、少しずつ呼吸の精度が上がってきたのが見えてきた。
ただ、肉体の修復には、まだ時間が掛かっている。
「竜道寺」
「はい、どうかしましたか? 師匠」
「少しは呼吸法が分かってきたか?」
「――いえ。最初に師匠が教えてくれた肉体が修復するときに痛みを軽減するための呼吸法を教えてくれましたが、その呼吸法を――」
「ふむ……。竜道寺、お前が意識的に行っているのは回復の呼吸法ではあるが、本来のお前の呼吸法ではない」
「本来の?」
「よし、今日は呼吸法を教える」
「――え? 師匠が自らですか?」
「何だ? 意外そうな顔をして」
「――い、いえ。そんなことは――」
「まずは伊邪那美が作った料理を食べてからだ」
料理を食べたあとは周囲のモンスターを俺が一掃し、呼吸法の鍛錬に充てることにする。
次元の迷宮の最初の場所――、ホール中心部へ移動したあとは、空手の息吹のような深い呼吸方法を教える。
「腹に力を入れて呼吸しろ」
「腹に?」
「ああ」
深呼吸を何度もさせる。
そしてボディーブローを腹に打ち込む。
「腹の下、丹田の場所に酸素を送り込むように意識しろ。体内の血液に酸素を巡らせろ。細胞の一つ一つまで丁寧に、そして迅速に、正確に送り込め」
「スーハースーハー」
何度も繰り返して呼吸をする竜道寺の腹を押さえながら、戦闘用の呼吸法を教え込む。
何度も何度も繰り返して。
「深呼吸を続けたら、今度は浅く早く呼吸を切り替えろ。慣れてきたら深く早く呼吸に。戦闘を行う上で体に巡らす酸素の量は絶対的なアドバンテージになる。そのために今日からは肺が抱えられる酸素の量も増やすために内蔵の強化、大気に毒を流された場合、その毒を中和し無効化するための肉体強化も並行して行う」
「分かりました」
毒の迷宮というのが、異世界には存在していた。
そこでは、毒を無効化するための魔法というのが存在していたが、俺には補助系の魔法は効果がなかった。
そのために肉体強化を行う他はなかった。
そして、それは竜道寺も同じ。
とくに毒というのは、平常時・戦闘時、両方含めてもっとも危険なモノ。
それを克服しない限り、戦闘時の不確定要素を払拭することはできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます