第750話 修行2日目(5)

 竜道寺が頷く。

 そして群れで動くスライムの特性上、すぐにブルースライムが3匹、姿を見せた。


「行きますっ!」


 俺と、伊邪那美が見てる中で、学校の通路ほどもある十分に刀を振るうほどの広さがある通路をスライムに向かって走っていく竜道寺は、手を手刀の形へと――、そのまま自身の手刀をスライムに突き刺すが、ジュッ! と、言う音と共に――、


「くう――あっ……」


 苦痛の声を上げると、スライムから走って距離を取った。


「――何が!」


 伊邪那美は、悲痛な声を上げる。

 そこには、何が起きたのか分からないと雰囲気も内包していたが――、


「竜道寺。お前では、俺と同じ行いをしてスライムを倒すことはできないぞ。頭を使え」

「くうっ」


 竜道寺は、右手――、右腕を左手で押さえながら苦悶の表情で頷く。

 激痛から満足に言葉を返すことができないのだろう。

 

「どうして、あの子の腕が無くなって――、第一、桂木優斗! お主と同じことをしたというのに……どうして……」

「決まっている。速度が足りてないからだ」

「速度って……、お主と遜色は――」

「それはどうだろうな」

「こ、これは――、腕が再生されて……」


 俺と伊邪那美が見ている前で、少しずつだが、確実に竜道寺の右腕が再生されていく。


「お前に渡した腕輪の性能の一つ。登録者である装備者の遺伝子情報を読み取って自動的に肉体の修復を行う。だが、その際にはキチンと痛みを伴うから、覚悟はしろよ?」

「――は、はひっ!」


 まぁ、感度100倍にある程度耐えられるようになったのだ。

 肉体再生に時間はかかるが、その痛みにも耐えることはできるだろう。

 竜道寺は、何度も意識を失いかけているのか、足元がふらついているが、意識が飛ぶ瞬間に雷に打たれたような痛みが全身を駆け巡るので、意識を失って痛みから逃げることも許されない。

 そもそも戦場で痛みから意識を失うなど論外だ。


「うあああああああああああああっ」


 叫び声をあげて必死にストレスから逃げようとする竜道寺は、何度か肩で呼吸をする。


「竜道寺! お前には、才能がない。だが、修練は裏切ることはない。痛みを逃がす呼吸法を身に着けろ!」

「は――、はいっ!」

「もう少し優しく教えてやってもいいのではないのか?」

「十分に甘く育てている」

「本当かえ?」

「ああ」


 何故なら死なないからな。

 竜道寺は何度もブルースライムを倒すために手刀で、ブルースライムを突くが、その竜道寺の手刀がブルースライムの核へと到達することはない。

 竜道寺の手刀が、ブルースライムの表皮を貫いた途端、強力な酸が一瞬で竜道寺の腕を消化するからだ。




 ――ブルースライムを倒すための修行が始まってから1日が経過。


「倒せませんでした」


 深くため息をつきながら、竜道寺は伊邪那美が作った料理を食べつつ、口にする。


「倒せるまで修行しろ。それと肉体の修復が遅すぎる。お前が身に着けている腕輪は、お前の呼吸レベルに合わせて肉体修復を行う」

「呼吸レベル?」

「ああ。たとえば一般人とマラソン選手では呼吸法が違うだろ?」

「えっと……」


 食事をしていた手を止めた竜道寺が「そういえば違うような気がします」と、頷く。


「呼吸法というのは個々の肉体に応じて異なっている。お前は、たしかに肉体自体は、それなりの水準まで強くはなったが、その肉体全ての力を引き出してはいない。せいぜい1%と言ったところだろう」

「今で1%……」

「ああ。だから、お前が身に着けるのは――」


 俺は次元の迷宮の壁に背中を預けながら続いて口を開く。


「まずは自分に合った呼吸法だ。その呼吸法は、お前が身に着けている腕輪が教えてくれる」

「腕輪が?」

「ああ。その腕輪は、もう一人のお前だからな」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る