第743話 桂木優斗という人物 村瀬Side(4)
紆余曲折あったが、先ほどすれ違った女性? は、竜道寺警視に間違いないようであった。
まぁ神格を有している人間は、神を一時的にでも祭事で宿した神官か宮司、巫女しか見たことがないから逆に違っていたら驚くところであったが。
それにしても、数日前には何の霊力も呪力も持たない人間が神格まで有していることは驚嘆に値した。
それに何よりも、桂木優斗という少年を師事すれば、私も神格を有することができるかも知れないということに胸の高鳴りを覚えた。
神格を有するということは、神の気を扱えるということ。
それは人の身でありながらも神器を完全ではないとは言え扱うことができるようになるということに他ならない。
女になるかも知れないが、そのメリットは測りしれないだろう。
何より、女の方が霊的なモノを扱う上では優れているのは自明の理ではあるが。
私は遠回しに桂木優斗少年に、頼み込んだ。
力が欲しいと――。
だが、彼は私をいつものように一瞥したあと口を開くと「止めておけ」と、断ってきた。
――ありえない。
そう胸中に思いが広がっていく。
何の才能も有していない。
家柄も私の方が遥かに優れているというのに、そんな私が竜道寺警視という凡人と比較されて拒否された。
その事実に私は、ひどく自尊心が傷つく。
――認めたくない。
そんな気持ちが心の中を占める。
だからこそ、食い下がる。
そんな私を見て桂木優斗という少年は目を細めると「なら試してみるか? 資格があるのかどうか」と、答えてきた。
「資格ですか?」
思わず、そんな疑問符が口から洩れる。
この私が、ただの凡人である竜道寺警視と比較されることに驚いた。
何故なら数百年と続く陰陽師の家系であり、その当主であり、自身も優れた陰陽師だと自負していたから。
どう比較しても竜道寺警視よりも、すべての面において私の方が優れていることは火を見るよりも明らかなのは確かなのに……、桂木優斗という少年の口ぶりでは、まるで私の方が下に見られているような――。
ただ、彼が私に資格があるのか試すという言葉を引き出すことは出来た。
それに答えることができたのなら、私も霊能力者として――否! 陰陽師として! 更なる高みに到達することはできる!
そんな私の考えを他所に、桂木優斗少年が私の肩に手を置く。
――そして。
世界が暗転した。
最初に感じたのは、激痛。
体中の内臓から皮膚――、骨に至るまで全ての感覚が痛い。
「(――な、なにが……何がおき……)」
最後まで言葉にならない。
思考が纏まらない。
体内を巡る呪力が――霊力が、まるで言うことを聞かない。
「(――あ)」
唐突に、脳が――、脳が、痛みを訴えかけてきた。
その痛みは、一般人では常人では耐えられないほどの痛み。
「(あ、あああああああああああああっ)」
体中の細胞、そして体のすべての毛穴が開いたように鋭敏化していく神経。
どのくらいの時間が経過したのか分からない。
ただ一つ分かったことがある。
それは私を見定めるかのように見下ろしてきている桂木優斗少年の瞳には何の感情も浮かんでいなかったことに。
無機質に観察してくる瞳。
そこからは何も読み取ることができない。
――違う。
「(ああ、そういう……)」
どうやら体の神経が鋭敏化した影響で霊視の力も一時的に跳ね上がっていたらしい。
だからこそ、桂木優斗少年の存在が明らかに異質であることに、ようやく気が付くことができた。
少年は、この世界に存在しているようでいて、存在していない不確かな存在であることに。
「(ありえない。こんなことはありない。妖魔、妖怪、神、それらは超常現象と言っても、結局は世界の一部。なのに――、そこから逸脱した存在……)」
――声にならない声。
そこまで分かったとこで、私は意識を失った。
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