第742話 桂木優斗という人物 村瀬Side(3)
「これは、明らかに――」
式神を通して視た『桂木優斗』と言う少年の力は、霊力を一切使用していないということだけはわかった。
そして神の力を手に入れたのなら神格を行使した際に発生する事象すらない。
続いて出てくる言葉が出てこない。
「だが――」
実際に銃弾を素手で弾くどころか、人造とは言え作られた神であるカンカンダラと呼ばれ――、水神に近い神すらも圧倒的なまでの『力』により討伐している。
だからこそ、得た情報を警察庁で拘留中の男――、厚木厳十郎殿へと送った。
現在の内閣府直轄陰陽連となった組織に所属しているすべての陰陽師と関係者を含めても、もっとも実力のある厚木厳十郎ならば何か分かることがあると思ったからだが。
果たして――、その結果報告は、諏訪湖で発生した事件が解決してから数日経過したところで、式神を通して連絡が届いた。
結論は、判断不可能と言ったことであった。
目の前で桂木優斗という少年の力を見ていた代々阿倍家に仕えている占星術師でもある厚木厳十郎殿ですら、その深淵の力を見通すことはできないということであり、謎は深まるばかりであった。
神の力でもなく――、霊力でもなく――、ましてや妖力でもない。
それなのに半分は神となった人造神ですら足元にも及ばないほどの力を有している存在。
一般人であるのなら、何とも思わないだろう。
ただ陰陽師という立場から見たら、その存在は理解できないという一点だけで、危険だと断じるには十分なモノであった。
そんな時分に、桂木優斗という少年が一人の警察関係者を弟子に取ったと報告が入ってきた。
それは、警察官僚や上層部には非常に衝撃的なことであり、もちろん陰陽連に所属している陰陽師から見ても非常に興味がそそられるものであったことは言うまでもない。
どういうプロセスを経れば、半分神になった存在を調伏することができるだけの力を得ることができたのか。
呪力を操る陰陽師や霊力を有している霊能者――、神社庁や陰陽連だけでなく、諸外国の教会関係者までもが、修行内容に関して関心を寄せたのは当然であった。
「果たして、どれだけの修行が必要なのか……」
上がってきた書類に目を通しながら、日々、陰陽連の仕事を神谷警視長に振られていた私は一人呟く。
何故なら霊能力者なら誰もが頂点を夢見るから。
安倍晴明という最終目標に。
そして修行が始まったと話が内閣府直轄陰陽連に流れてきてから数日が経過した時に、桂木優斗という少年から事務作業を手伝ってほしいと通達が下りてきた。
「ちょうどいい」
どう言った修行をつけているのか。
そして、どう見ても凡人であり霊力・妖力・呪力、どれを取っても何の才能もない人がどれだけ成長したのか気になり対策室へと向かっている間に廊下で神谷警視長と、もう一人の見慣れない府警とすれ違った。
「(――な、なんだ……。……あ、あれは……)」
すれ違った瞬間に、思わず足を止めて体は硬直し指一本動かすことも出来なくなった。
陰陽師としては、戦国時代から続く名家に生まれた希代の陰陽師とも言われた私がだ!
「(神格を表すオーラ……? それに、あの魂の色は竜道寺という警視とそっくり……だ……)」
――だが、彼は性別的には男だったはず。
女では――。
そこまで思考したところで、桂木優斗という少年が、性別を幾らでも自由自在に変更できることに思い至る。
「――ま、まさか……」
体を硬直させている間にも、神谷警視長と竜道寺警視と同じ魂の色を持つ人間はエレベーターに乗り込むと扉を閉めた。
「あれが、竜道寺警視だというのか……」
だが――!
修行が始まったのは、3日前と聞いていた。
「たった3日の修行で、あそこまで変わるものなのか……?」
ありえない。
これは、是非に桂木優斗という少年に聞かなければいけない。
あれが、本当に竜道寺警視なのか? ということを。
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