第741話 桂木優斗という人物 村瀬Side(2)

 初めて、当代最強であった陰陽師の阿倍珠江を葬った危険重要人物である『桂木優斗』と言う少年と出会った時に思ったことは、人間にしか見えないことであった。


 ――そう、人間にしか見えない。


 ただの人間であり、神を宿したのなら見えるはずの神格すら感じとることができない。

さらには式神すら目視することも出来ない。

 そんな人物が才能に恵まれた人間を殺した――、それは非常に理解し難いことであった。

 だからこそ、役所の中の一部署まで落ちぶれた元は陰陽庁の地域保全公務課を、数日のうちに陰陽庁まで復帰させたことには驚きを禁じえなかった。

 一部署――、役所から切り離した上での独立採算制であるが、国から陰陽庁として動いていいと確約を得たことに。

 さらに驚いたことは、まだあった。

 それは警察庁内部に役職を得ていたことであった。

 僅か16歳の男子高校生が、日本でも30人にも満たない警視監の役職を与えられる。

 それが、どれだけありえないことなのか、それは誰の目から見ても明らかであった。

 だが、表立って、そのことを口にする人物は出てこない。

 日本国政府が、関与していると感じさせるには十分なことであった。

 

 ――それが一部の人間しか知らないことだったとしても。


 何よりも陰陽庁の内部からも文句を言い出す者が出てこなかった私は驚いた。

 理由を聞けば至極簡単なことであった。

 陰陽庁に所属している陰陽師にも給料は払われている。

 その給料が、『桂木優斗』という人物がトップになってから倍近くになったのだから文句を言う人物など出てくるはずもない。

 そして、その給料を捻出していたのは『桂木優斗』という一人の少年であった。

 年間、数百億――、場合によっては数千億の資金を国から独立している状態で一人で生み出す。

 それが、どれだけ常識外れなことなのか……。

 付き人や、警備を雇っている村瀬家の当主として、簡単には信じられないことであった。

 だからこそ、怪しげな宗教組織に向かおうとした彼を私は止めようとした。

 すでに式神から、情報を得ていたからだ。

 重火器で武装した傭兵団と信者が守っている施設。

 そこに単身で向かう『桂木優斗』という男子高校生。

 だが、彼は何の気負いも見せることなく私に命令をしたあと、たった一人で宗教施設へと向かっていった。

 気になり、式神を飛ばし意識をリンクした上で、桂木優斗という少年が戦っている姿を見た。


「――じゅ……銃弾を素手で弾いている……?」


 高位の陰陽師であっても純粋な物理現象を無効化することはできない。

 式神を使い盾にすることはできるが。


「何も見えない……」


 何をしているのかは分からない。

 霊力による身体強化ならば、銃弾を無効化することはできないが、強化された肉体により致命傷を負うことはなくなる。

 ただ、霊力を使えば必ず霊力の流れというのを感じとることはできる。

 むしろ、それができるからこそ陰陽師をしているのだが。

 だが、その霊力の動きが一切! 桂木優斗という少年から見て取ることは出来なかった。

 それは明らかに異常なことであった。

 

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