第740話 桂木優斗という人物 村瀬Side(1)
――季節は春華と言っても過言ではない時期であった。
「村瀬様」
そう俺に話しかけてきたのは、本家に古くから仕える陰陽師の一派の一人であった。
「どうかしましたか?」
「これを――」
差し出された封書を受け取る。
そこには、一般人が開けることができないように強固な呪がかけられていた。
「これは何か?」
「厚木厳十郎様からの式神が届けにきました」
「厚木厳十郎殿から?」
私は、渡された封書にかけられている呪を解除し、中身に書かれている文字に目を通していく。
そこに書かれていた内容に思わず眉間にしわが寄った。
「陰陽師のトップが――」
「どうかされましたか? 村瀬様」
「何でもありません。それよりも、厚木厳十郎殿の式神が封書を持参したことを知っている者は?」
「私だけですが……」
「そうですか。それでは、他言無用ということでお願いします」
「分かりました」
私の言葉に、封書を持参した付き人は下がる。
男の姿が見えなくなったあとに部屋に戻り手紙の内容を拝見する。
「まさか……、あのお方が――、安倍晴明様の直系である御屋形様が殺されるとは……」
――阿倍(あべの) 珠江(たまえ)
地域保全工務課まで落ちぶれた内閣府直轄陰陽連を束ねている陰陽師。
実力は、引退した陰陽師を含めて当代最強。
殺せる者は、神社庁の中でも存在しないほど隔絶した呪力を持った人物。
何度か召集に応じた時に会い話をしたことがあるが、それだけでも分かるほど自身との実力差は分かるほどであった。
「神の力を手に入れた子供に殺された……?」
封書に書かれた内容を見てさらに驚く。
何故なら陰陽師や神職に身を置く霊能力者が神との対話を間違えるわけがないからだ。
それなのに殺されたということは何か問題があったということになる。
それよりも何よりも神の力を体に宿せるのか? と、言う疑問に尽きた。
だからこそ、厚木厳十郎殿の封書を見て『桂木優斗』と、言う人物と接触することにした。
――数日後。
素行を調べた限りでは、『桂木優斗』という少年は、どこにでもいる高校1年生の16歳であった。
届いた調査書には、他には中学の頃に凄惨なイジメを受けていたと書かれており、どう見ても人を殺せるような人物には繋がらない。
「やはり、直接会って見定めるしかないか」
本来なら、神が関わっているのなら神社庁が動いていてもおかしくないはずであった。
だが、調べる限りでは神社庁の神薙がスカウトをすることはすれ討伐するような動きは見せていない。
そこから見るに、判断に困るところであった。
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