第739話 事務作業(2)

「――と、いうことは私でも神格を得ることは可能ということでしょうか?」

「ふむ」


 俺は見ていた書類から顔をあげ、村瀬を見る。

 その目を見て、俺は口を開く。


「止めておけ」

「ど、どうしてですか?」

「信念と覚悟が定まってないからだ」

「それは、私にですか?」

「ああ」


 俺は書類に視線を戻し、短く答える。


「私の家系は――」

「知っている。陰陽師として戦国時代から続く家系なんだろう?」

「はい。ですから資格としては――」

「不十分だな」


 バッサリと切り捨てる。

 だが、それだけでは納得をしないことは分かる。

 

「――ですが!」


 尚も食い下がってくることは想定内。

 俺は椅子から立ち上がる。

 

「なら試してみるか? 資格があるのかどうか」

「資格ですか?」

「ああ」


 俺は村瀬に近づき、肩へ手を置く。

 そして肉体を遺伝子情報を瞬時に調べるとともに肉体の感度を100倍に引き上げる。

 途端に、村瀬は体を震わせると頭を抱えて床の上に倒れると体を痙攣させ始める。


「どうだ? とりあえず1時間は耐えられそうか?」


 口から泡を吹きながら、瞳孔が開ききった、その瞳はどこも見ていない村瀬に俺は語りかける。


「桂木警視監!」

「お前は黙っていろ」


 村瀬が連れてきた男たちを一括すると、俺は村瀬が意識を失わないように、常に覚醒状態であるように脳を弄る。


「あああああああああっ」

「無理か」


 もしかしたら? と、言う考えもあった。

 戦力増強になるかも知れないと。

 村瀬の肉体にかかっている感度100倍のバフを解除する。

 途端に、村瀬は倒れたまま金魚のように口をパクパクとさせて意識を失った。

 しばらくして村瀬が気が付く。

 そして、俺を見た瞬間、距離を置くと顔を真っ青にして何かを言おうとして口を噤んだ。


「どうやら無事に目を覚ましたようだな。どうだ? 耐えられそうか?」


 村瀬が、力強く左右に頭を振る。

 

「わ、私には無理です……」

「だろうな。元々、力を持っているやつは、それなりのアンテナを有しているからな」

「――い、いえ……。そうではなく……」

「ん?」

「――な、何でもありません!」

「そうか?」

「はい。申し訳ありません。無理を言ってしまいまして」

「気にするな。最初に言っただろう? 俺の修行には信念が必要だと」

「信念……」

「何だ? 何かを自分の命――、存在感を捨てても守りたいモノがあるのか?」

「いえ。いまは……」

「なら、分不相応な力を求めるのは止めておけ。そもそも、あまり薦められた力ではないからな」

「それは重々承知しました」

「ほう」


 顔色は悪いが月の物が落ちたように、やけに素直に引き下がる村瀬に少し驚きながらも、立たせようと手を差し伸べる。

 そんな俺の手を見た村瀬は、俺の手を取ることなく立ち上がる。

 まぁいいが……少しショックである。


「御屋形様は、その……それだけの力をどうやって……」

「ん? 何を言っているんだ? 神の力を得たと聞いてないのか?」

「……そ、そうですか……。仕事に戻ります」

「お、おう……」


 何だか村瀬の俺を見る目に怯えの色が見えるが、何かあったのか?



 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る