第733話 アーティファクトの作成
「その前に――、まずは食事だな」
「食事……」
げんなりな表情の竜道寺を差し置いて、ドラゴンを焼く。
「ほら、焼けたから食べておけ」
俺は、全長20メートルほどの焼いたドラゴンを竜道寺の前に置く。
そして包丁とフォークを渡した後、お腹を鳴らした竜道寺が渋々と言った感じでドラゴンを食べていく。
その手際は、すでに慣れている。
まぁ1000年近く色々な魔物を食べているから、当然と言えば当然なわけだが。
「師匠。ドラゴンとか、A5ランク並の肉ですけど、もう少し手を加えた方がいいような気がしますけど」
「いや、他にやる事があるからな」
俺は、2000年近くかけて作り上げている漆黒の腕輪を手に取り計算式を原子レベルで書き込んでいく。
さらに原子を圧縮することで物質の強度を引き上げる。
強度はタングステン並。
腕輪の大きさは竜道寺の腕に密着すると自動的にサイズが変更するように設定。
竜道寺が食事しているのを横に見ながら、すでに竜道寺は重さ数十トンもあるドラゴンを完食しつつあった。
肉体改造と、筋線維の圧縮により必要カロリーが成人男性の数千人分に達しているのが、その原因。
「よし、やっと出来た……」
「師匠。ずっと何か作っていましたけど、それは何ですか?」
竜道寺が頬をモゴモゴさせながら聞いてくる。
「飲み込んでから話せ」
「ゴクン――。あ、はい。それで、師匠、それは一体なんですか?」
「これは、お前用の装備だな」
「私用の装備ですか?」
「ああ。お前の肉体の性能は、それなりに引き上げることは出来たが、それに合わせて維持の為には膨大なカロリーが必要だからな。このまま、この世界から日本に戻ったらエンゲル係数だけで破産するぞ」
「た、たしかに……」
竜道寺は、すでに数十トンのドラゴンの残骸を見ながら、表情をひくつかせる。
「でも師匠、それが、その腕輪で解決するということですか?」
「ああ。この腕輪には、お前の肉体の細胞――、遺伝子情報から自動的に発動するプログラムを埋め込んである」
「まるでパソコンみたいですね」
「まあな」
「それで、それを装備すれば、食事をする必要が無いということですか?」
「そんなことない。一般人と同じくらいの食事で足りるってことだ。それ以外は、この腕輪に内包したエネルギーが、お前の体の細胞に必要なエネルギーを供給することになる」
俺は2000年かけて作り上げた超圧縮タングステンの腕輪を竜道寺に放り投げる。
空中で慌てて受け取った竜道寺は、表情をパアッと明るくする。
「なんだか、すごい力を感じます」
「だろう? まぁ、それを扱うことが出来るのは、お前と俺だけだが――」
「へー。それで、これを装備すると極度の空腹から解放されるという事ですか?」
「ふっ――」
この俺が、それだけのモノを作るはずがない。
「師匠? また、変なモノを作ったのでは――」
「その腕輪だが、その腕輪が保有しているエネルギーは太陽が1秒間に放出するエネルギーと同等――、匹敵するモノだ」
「それって、相当ヤバイモノなのでは……」
「さらに! 俺ほどではないが肉体修復機能に、一次的だが、通常の10倍まで力を解放するプログラムも付与してある」
「……し、師匠」
「何、気にするな。お前は、一応は俺の弟子だからな。その程度のモノが無いと、これから本格的な技の修行に入れないし」
「本格的な技の修行?」
竜道寺の困惑した表情に俺は頷く。
「ああ。一応、お前は『弾』の技は使えるようになったが、俺が教える『桂木神滅流』の技は、大きく分けて5つに大別される」
「5つですか?」
「ああ。桂木神滅流には、『波』『弾』『閃』『斬』『陣』の5つの技に大別されている。この5つの内、体内の生体電流を利用せずに使えるのは『弾』、これは空気砲であり、それは既に習得しているな? あとは、『波』の一部の技を扱うことは出来るが、それは一部に過ぎないからな。――で、その腕輪は、莫大なエネルギーを有している。それがお前の体内の生体電流に流れることで――」
俺は手のひらを竜道寺に向けて熱量4000度ほどのプラズマの球を作り出す。
「こういう事も出来るようになる」
「……それって」
「――ということで、まずはその腕輪を装備しろ。これから本格的な修行に入るからな」
「あ、はい……」
「と、思ったが一端、その腕輪も出来たことだし、一回、現実世界に帰るとするか」
「――え? いいのですか?」
「ああ」
その前に現状を伊邪那美に言わないといけないからな。
さて、どう伊邪那美に言い訳をするか。
「ところでだ」
「はい? 師匠」
竜道寺は、俺が渡した腕輪を右腕に装備しながら反応してくる。
「――あ! 腕輪の形が変わりました!」
「まぁ、お前の脳波を読み取って変化するようにプログラムを原子レベルで組んであるからな」
竜道寺に渡したブレスレッドは、女性が好んで身に着けるようなブレスレットへと変化していた。
「――おほん! ――と、ところで……」
「はい?」
「お前は、男に戻りたいとか、そういう希望はあったりするのか?」
キョトンとした竜道寺は首を傾げる。
すると、2000年近く髪を切っていないことで踝まで伸びた竜道寺の黒髪が揺れる。
「えーと、私……、男の人だった時の記憶が殆ど薄れてしまっていて――、それに師匠言っていましたよね? 女の体の方が、ベースだと」
「つ、つまり……。そのままでいいってことだよな?」
「え? そ、そうですね……。――で、でも男に戻った方が戦闘では有利なのでは?」
「そんなことないぞ! うん! そんなことない!」
「そうなんですか? 師匠」
「ああ。男とか、内臓が外に出てるからな! その点、女の体の方が逆説的に言えば戦闘に向いているまである!」
「――でも、胸が邪魔になったり……」
「……」
たしかに竜道寺の肉体は、この2000年の間に年齢こそ1年程度しか経過してないが――、俺が、そのように肉体構成を組み込んだからなのだが……。それなりに女性としては、ちゃんとした体系に育っている。
「細かいことは気にするな」
「あ、はい」
「――と、とりあえずだ! 伊邪那美に何か言われたら、女のままでもいいかも知れないと何となく言え」
「え? ――で、でも……」
「よく考えてみろ。そのブレスレットも遺伝子情報登録は、いまのお前で組んでいるからな」
「なるほど……つまり、また作り直すと手間だと?」
「そうなる」
もうごり押ししよう。
あと戸籍とか色々と問題はあるが、そのへんは神谷に任せる。
一応、ある程度は変更はしたが、それ以外は何とかするしかない。
「でも師匠」
「まだ何かあるのか?」
「はい。私の両親や兄弟には何と説明すればいいのか……」
少し困った表情で竜道寺は口にしたが、俺も、そこは困った。
流石に、不必要な記憶改竄はよくないからだ。
「タイで、警察関係の捜査で色々あったとか言えばいいんじゃないか?」
思わず思いつきで口にしたが、中々に妙案な気がするぞ?
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