第727話 まずは軽いウォーミングアップからだな(2)
「桂木っ!」
後方から伊邪那美が叫んでくる。
どうやら、竜道寺の様子から修行の続行は不可能と伊邪那美は判断したのか口を挟んできた。
「少し黙っていろ!」
威圧と殺気を込めて伊邪那美からの声を封殺する。
「竜道寺! その状態で避けられるだけ避けてみせろ!」
すでに竜道寺の肉体は数百回死んだことで、かなりの身体的な強化が施されている。
死ぬ度、そして筋肉が欠損するたびに超回復というものが発生するように俺が細胞の修復を行ったからだ。
問題は、修復しても、強化済みの肉体であっても、ソレを扱う術――、感覚が竜道寺にはないことが問題なわけで。
「グオオオオオオオ」
オークキングが、俺に突進してくる。
「おいおい」
思わず悪態をつく。
どうやら、俺を脅威だと認識したようだ。
「――ちっ」
舌打ちしてしまう。
伊邪那美の行動を制限する時に、放った殺気に反応したというところか。
「仕方ない。竜道寺、見ておけ」
肉体強化を一切、使わない状態で、振り下ろされた1トンを超える棍棒を左手で軌道を逸らす。
振り下ろされた1トンを超える棍棒は、草原の草を舞い上がらせ地面を爆散させる。
さらにオークキングは、俺が棍棒を避けたと理解するや否や左拳を俺目掛けて振り下ろしてくる。
「――し、師匠!?」
普通に考えれば、まともにオークキングの拳を真正面から受ければ一般の男はひき肉になるだろう。
だが――、
「い、いなした……?」
左手で空中に半円を描くようにして、振り下ろされたオークキングの拳の軌道すらズラす。
棍棒を掴んでいる右手は、未だに伸び切ったまま。
そして左腕は、空を切ったまま。
完全に体勢が崩れたオークキングの棍棒を足場にして、一足飛びにオークキングの顔面に移動し、両腕で手刀の形を作りオークキングの両目に向けて放つ。
一瞬、硬い何かを貫く感触が指先から伝わってくると同時にオークキングは、激痛からなのか棍棒から右手を放し後ろによろめきながら、両手で、その顔を覆う。
「――さて」
両目を失ったオークキング。
後ろへとよろめきながら後退していく様は、俺から逃げるようだ。
「竜道寺」
「……はい」
「人間タイプのモンスターは、基本的に人間と同じ個所が弱点だ。とても分かりやすい。――そう、弱点がとても分かりやすい」
右手に力を込めながら手刀の形へ。
そのままオークキングと距離を詰め、喉ぼとけからオークキングの首と心臓を右手刀で貫く。
一瞬で、急所を抉られたオークキングは、ズシン! と、重苦しい音を立てて絶命し倒れた。
「とりあえず、こんなところだ。参考になったか? 一応、普通の人間でも殺せる程度まで身体能力を落としたんだが……」
「無理です!」
「無理じゃろう」
竜道寺と伊邪那美の声がハモッた。
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