第722話 さあ、修行の始まりだ! (7)
「えっと……師匠……、こちらの三方は?」
リビングに、黄泉の国の女王である伊邪那美命と、パンドラの箱の管理者であったパンドーラ、白亜を迎い入れたところで、恐る恐ると言った様子で竜道寺が俺に話しかけてきた。
「そうだな。とりあえず自己紹介は必要か」
「自己紹介? 私からでいいの? お兄ちゃん」
「ああ。今日、白亜が連れてきた連中は初めて見たってやつもいるからな」
「わかったの。えっと! 私は桂木胡桃です! お兄ちゃんの妹です!」
「ほう。この者の妹かえ……。それにしては――」
「何だ? 伊邪那美。言いたい事があったら聞こうじゃないか」
「――な、なんでもない。それでは、妾(わらわ)もついでに自己紹介といこうかの。妾は、黄泉の国の女王であり国生みの神の片割れ――、伊邪那美命(いざなみのみこと)じゃ。よろしく頼むぞ? 桂木胡桃」
「え? ――あ、はい! 伊邪那美命様!」
「うむ。だが、妾と桂木優斗の付き合いからして、妾のことは命と呼んでも良いのだぞ?」
「――で、では命ちゃん?」
「まぁ、それでもよい」
何だか伊邪那美と妹との会話が随分と軽いな。
「師匠、あの方は……つまり……神様ということで……」
竜道寺が顔を真っ青にして俺に確認してきたので頷いておく。
「えっと私はパンドーラよ? パンドラの箱を守ってきた女という意味があるわ。よろしくね」
「……」
竜道寺、口をあけたまま放心状態。
「次に妾じゃな。妾は天狐にして桂木優斗の妻であり従属神、白亜じゃ」
「……し、師匠」
「どうした?」
「師匠、これは……、いえ、なんでも――」
「そうか?」
「うわーすごいの! パンドーラさんの髪の毛サラサラなの!」
「うふふ、胡桃ちゃんは可愛いわね」
「えへへ」
「うむ。桂木優斗の妹とは思えないほどじゃな」
「し、師匠の妹様も何かすごい存在とかそんな感じでは……」
「いや、普通の人間だが?」
「……」
それにしても、一瞬で場に順応してしまうとは、流石に俺の妹だけはある。
「そういえば、伊邪那美」
「なんじゃ?」
「お前って伊邪那岐とゴタゴタになった時に地上の人間に害を成すとか言わなかったか? 胡桃を膝枕しているがいいのか?」
「ふむ……。もはや既に、そのような些事は終わっておる」
「そうなのか?」
「うむ。すでに高天原に居た伊邪那岐とは話し合いはついておるからの。それに現世では、お主に肉体も再生してもらったことだし、すでに呪詛はない。――と、なれば自然と、人間らは妾の子でもあるからのう。なれば、愛おしく思うのは当然であろう?」
「なるほどな」
胡桃を膝枕しながら髪の毛を優しく撫でている様子から見ても伊邪那美の言葉は嘘ではないのだろう。
「ねえ! お兄ちゃん」
「何だ?」
「命ちゃんとは結婚するの?」
「しないというか、すでにソイツには伴侶がいるから俺が入る隙はないし、そもそも入るという野暮はない」
「それは残念なの……」
「パンドーラさんは?」
「私も、ありえないですね。桂木優斗様とは――」
どうして、俺が振られているような流れになりそうな空気を感じるのか。
「へー。――でも、お兄ちゃんには都さんがいるものね」
「……それよりも! とりあえず、これで自己紹介は終わったな?」
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