第723話 さあ、修行の始まりだ! (8)
「お兄ちゃんが話を逸らしたの」
胡桃のペースに乗せられていると、いつまでも経っても話が進まない。
「あの……師匠」
「どうした? 竜道寺」
「一つお聞きしたいことが――」
「何だ?」
「伊邪那美命様は……、黄泉平坂を――、冥府を司る神様ですよね?」
「ああ。そうだな」
「……」
「そんなに畏まることはない。妾は、あくまでも日本神話に属している神である。汝は、我が子であり、我は言わば汝――、竜道寺乙姫。汝の母でもある。だから、あまり気を使わなくてよいぞ?」
「……そ、そんなことを言われても――」
顔色を青くしたまま、俺の方を見てくる竜道寺の頭を掴む。
「いまは、立場なんて気にする必要はない。それよりも、お前の修行のために伊邪那美とパンドーラを呼んだ」
「――え? じ、自分のためですか?」
「ああ。何が起きるか分からないからな。不測の事態の為の対応ってやつだ」
「あ、はい……」
項垂れる竜道寺を一喝したあと、
「ふむ。つまり、その者。――竜道寺乙姫という者を――、桂木優斗の弟子を鍛える為に妾を呼んだと……それで相違ないか? 桂木優斗」
「ああ。無理か?」
「そんなことはない。念のための確認じゃ」
「そうか」
「――で、どのように鍛えるつもりじゃ?」
「夢の中で戦闘経験を学ばせようと考えている。もちろん思考加速は、俺の得意とする分野だから、1時間で100年分の修行を行えるようにしようと思っているが」
「……お主は、普通の人間が100年――、睡眠時間を8時間としたら800年間分の修行を行えば精神性がどうなるか理解できてないのか?」
「だから俺が対応するんだろう?」
「まったく――」
そう呆れたような表情をする伊邪那美。
「あの――」
「どうした? パンドーラ」
「優斗さんが体内に吸収したパンドラの箱を使えば肉体をそのままで、本当の実戦経験を積めると思うのですけど……それでは無理なんですか? 夢の中ですと、知識で覚えた動きと現実の肉体との間に齟齬が生じると思うのですが……」
「ふむ……たしかに一利あるな」
俺が喰らったパンドラの箱。
それは、俺の体内で消化し力に変えたが構成物質から、構成方式まで全て解析を終えている。
「もしあれでしたら、私がパンドラの箱を使い鍛錬場を作ります。中の設定も、私ならできます。ですから、パンドラの箱を出して頂ければ――」
「それは妙案だな」
手の平の上で、10センチ四方のパンドラの箱を作り出す。
「これでいいか?」
「本当に、分けることが出来るのですね」
「当たり前だ。自分の力に転化できるってことは解析し作り出すことが出来るってことだからな」
まぁ、俺の本来の力が戻ってきたから出来ることではあったが。
俺はパンドラの箱をパンドーラに渡す。
パンドラの箱は、真っ白とは程遠い、漆黒の――、どこまでも暗い闇の色を讃えていた。
「あの……これだと呪いが強すぎて、私、存在が箱に喰われて――」
床の上にパンドーラは箱を落とす。
そんな箱を苦笑いで見つめる伊邪那美命。
「そうか。――なら……」
箱から余計な力を回収する。
すると漆黒の闇の色から、真っ白な純白の箱へと変わる。
「これでいいか?」
は、はい。恐る恐ると言った感じでパンドーラは俺からパンドラの箱を受け取ると歌い始める。
するとリビングの空中に青白く光るルーン文字が出現していく。
そのルーン文字は、空中で集まると円の形に。
「できました。これで円の中に入れば、パンドラの箱の中へ転送されます。あとは、どういう修練の場にしたいのかを――」
「構成は理解した」
俺は両手で大事そうにパンドーラが抱えているパンドラの箱に手を置く。
「こんなところか……」
俺はパンドラの箱にパンドーラが干渉した時の原子・素粒子・大気の動きから計算を組み立てた上で干渉。
「え?」
一瞬でパンドラの箱の機能を設定したところで――、
「竜道寺」
「はい?」
「パンドーラの提案で最適な修行場が出来たから安心してくれ」
「……」
苦笑いする竜道寺の腕をつかむ。
「とりあえず、異世界に行ってこい」
俺は、竜道寺の体を空中に生まれたルーン文字に囲まれた転送口の中へと放り投げた。
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