第720話 さあ、修行の始まりだ! (5)

 急ピッチで作成された竜道寺の新しい警察手帳。

 それと手にした時の竜道寺は溜息をついていた。


「桂木警視監」

「どうした? 神谷」

「これから、どうする予定ですか?」

「ああ。ちょっと修行だな。死霊系モンスターに対する対応については、何よりも経験が必要だからな」


 とくに異世界ではなく日本がある此方の世界のホラー系の連中についての対応は、物理的にごり押しする必要が出てくるだろうからな。

 このへんは才能が必要な問題だよな。


「そうですか……。一応、竜道寺君……竜道寺さんは人間ですので――」

「分かっている。だから、きちんとした修行が必要なんだろう?」


 俺の認識が間違っているのか?

 まったく分からんな!


「じゃ、神谷」

「はい」

「神社庁とのセッションについては、お前に任せておくから、あとは頼んだぞ」

「どちらかと言えば瀬戸内海の漁業関係者と香川警察署への根回しがメインとなると思いますが……」

「それで頼む」

「分かりました。それでは、小豆警察署に連絡を通しておきますので、連絡があった際の対応をお願いします。それと警察庁からも連絡が来るかと思います」

「色々と手続きが面倒だな」

「桂木警視監が一人で出向くのでしたら問題ないのですが……。今回は民間人を一人と警視を同行させるという形になりますので……。神社庁が、間に入っているとは言っても、それなりの手続きが必要となります。陰陽庁が、正式な手順で業務継続されていれば話は違っていたのですが……」

「そこらへんは安倍晴明の子孫に問題があったというところか……」

「はい。死んでからも本当に迷惑をかけてくれます」

「とにかく3日後に島へ渡れるように手筈を整えておいてくれ」

「もちろんです」

「――では竜道寺、そろそろ行くぞ」


 千葉県警察本部駐車場で神谷と会話していた俺は、後部座席に座りドアを閉める。

 

「それでは桂木警視監、くれぐれも手加減をしてください」

「どうして、そこまで俺に念を押す……」

「念のためです。念のため――」

「知っているか? 神谷」

「何でしょうか?」

「弟子は生かさず殺さず育てるのがミソなんだぞ?」

「桂木警視監の場合は殺して殺して育てるようなことをしていると竜道寺さんの話では判断しましたが……」

「生きているから問題ないだろう?」

「それは……。まぁ、本人が納得しているのでしたら――」

「自分は納得してませんが!?」


 神谷と会話をしている中で竜道寺が話に割り込んできたが――、


「弟子の意見は聞かないことにしている」

「ご愁傷様、竜道寺さん」

「神谷警視長……。そこは、もう少し頑張ってくださいよ……」

「無理ですね」

「さて、話をまとまった事だし、そろそろ車を出せ。竜道寺」

「はい……」


 諦めた顔で車を発進させる竜道寺。

 車は、俺の自宅に向かう前に、まずは竜道寺の家に向かう。


「ふむ……」

「どうかしましたか? 桂木警視監」

「――いや、お前……、男とは体が違うのに、どうして自宅に向かう必要があるんだ?」

「着替えとか色々とありますよね?」

「そうじゃなくて、今のお前は女なんだから、男の着替えを持ってきても意味がないだろう? もしかして、男の服を全て女の服に俺に変化させようと思っているのか?」

「駄目ですか?」

「面倒だ」

「――え? それじゃ……。自分は、女性用の服とか知らないのですが……」

「まぁ、そのへんは妹とかエリカに聞けば何とかしてくれるだろう」

「えっと……たしか師匠と一緒に暮らしている人でしたか? エリカという人物は心当たりはありませんが……」

「それについては、家についてから説明をする」

「分かりました」


 


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