第719話 さあ、修行の始まりだ! (4)

 神社庁に所属している住良木に対して、対策室から霊障依頼に関して神谷に任せてから2時間後に電話が掛かってきた。

 電話相手は、住良木。

 住良木から、現地での行動に関しては神薙や半神である天野は制限が掛って行動ができないと報告がきた。

 そこで、俺の方から応援が欲しいとの連絡であったが、こちらも都を守るために、白亜は動かせないし、妹の胡桃に関してもエリカは身動きが取れない。

 俺が動いてもいいが、それだと良く分からない連中の襲撃に対応が出来ないということで――、実戦経験を積ませる意味合いもあり竜道寺を派遣する事になった。

 そのことを、通話を切ってから竜道寺に伝えたところで――、


「師匠、それは幾らなんでも無理な気がしますが……」

「そうか?」

「はい。自分は、そこまで強くはなっていません。それにこの依頼ってAランク陰陽師が複数人集まっても対応できないのですよね? 結界を張るのが精いっぱいだと書かれていますが……」


 竜道寺は、瀬戸内海に存在している島――、夜鳴き島に書かれている内容を見ながら出来ない理由を言ってくるが――、


「問題ないだろ?」


 俺はコピーされた資料を机の上に置き、竜道寺を見る。


「問題だらけです! 一夜にして島民300人が行方不明になるなんて普通ではありません! それに、事態を重く見た当時の昭和時代の陰陽師が10人、島に上陸して誰一人生きて戻らずに、それ以降は結界に封印された島なんて――」

「逆に考えろ」


 俺は、神谷が先ほど淹れてきたコーヒーを口にする。


「誰一人、島では生き残りが居ないからこそ、出てくる連中は生死の判断する事なくぶっ殺せると」

「……その考えは警察官としては……」

「まぁ、物は言いようだな」

「……はぁ。――でも師匠は、俺に行けって言うんですよね? 強制ですよね?」

「当たり前だろ。まぁ3日も修行時間はあるんだ。お前一人でもなんとか出来るくらいは鍛えてやるから安心しろ」

「安心できませんが……」


 まったく、この俺が徹底的に鍛えてやると言っているのに、まったく信用してないな。


「分かった」

「分かってくれましたか?」

「ああ。3日間で、桂木神滅拳を伝授してやろう」

「何ですか……、その黒歴史みたいな名前は――」

「気にするな。それよりも、純也の足手まといにはならないくらいは、竜道寺――、お前の力は引き上げてやる」


 俺の言葉に顔色を青くしていく竜道寺。


「桂木警視監」


 俺と、竜道寺との会話が一段落ついたところで、神谷が話しかけてきた。


「何だ?」

「警視長……」


 何か知らんが、希望を見出したような表情で竜道寺は神谷の方を見るが――、


「竜道寺君ですが、女性と男性――、どちらで扱った方がいいのでしょうか?」

「そうだな。コイツは、一応、見た目は女だから女性扱いでいいんじゃないのか?」


神谷が、気になってきたことを俺に確認してきたところで竜道寺が「――え? そっちのことですか?」と肩を落としていた。


「分かりました。あとは名前ですね」

「名前か……」


 神谷がコクリと頷く。

 

「――いやいや、待ってくださいよ! 自分には、幸三(こうぞう)と言う立派な名前が!」

「竜道寺、お前は何も分かっていないな」

「え?」

「神谷は、お前が婦警として活動していく上で幸三という明らかに男の名前を問題視しているんだろうが」

「はい、竜道寺君。よく考えてください。今の貴女は遺伝子レベルで女性です。そして年齢も10年以上若返っています。若返りという人類が永遠と求めてる技術を警察が所有しているとバレたらどうなるか分かってください」

「――うっ!」

「ですので、竜道寺君には、名前を偽って活動してもらいます。あくまでも婦警として活動している間ですが」


 神谷も色々と考えているな。

 だが、そうなると竜道寺の名前を考える必要があるな。


「竜道寺か……。竜――、ふむ……」

「桂木警視監、何か良い案でも?」

「竜と対を成すと言えば乙姫でいいんじゃないのか?」

「――! いいですね」

「いいですね! では! ありませんよ! 神谷警視長!」

「まぁ、細かいことは気にしてはいけませんよ? 乙姫さん」

「よし、じゃ竜道寺乙姫でいいな」

「桂木警視監……、自分には親から命名された立派な名前が――、幸三という名前が……」

「その姿でいる期間だけだ」


 俺は、パソコンを立ち上げて、電子を操作し、役所のデーターベースと、警察のデーターベースを追加し書き換える。

 どんなに強固なセキュリティプログラムでも、俺の前では何の意味もない。


「公共機関のシステムは全てハッキングして竜道寺乙姫の情報を追加で修正した」

「――あ、本当ですね。でも、この対策室からハッキングしていたことがバレたら大問題になりますので、本当にやめてください」

「問題ない。俺のハッキング技術にミスはないからな」

「そ、そうですか……」

「――え? ほ、本当に自分のデーターが書き換えられてというか追加されて――いますね……」


 肩を落とす竜道寺。


「神谷」

「はい」

「竜道寺は、とりあえず幸三の身内ってことで妹ということにして追加したから、警察手帳を作っておいてくれ」

「分かりました。すぐに手配しておきます」


 あとは3日間で竜道寺をある程度は鍛えないとな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る