第716話 さあ、修行の始まりだ! (1)

 俺がサインをしている間に、神谷は竜道寺を連れて対策室から出ていく。

 そして、俺と言えば、書き慣れないサインをしていくが、書類の大半が陰陽連についてのことであった。


「陰陽連か……」


 前は違った名前だったよな。


「それにしても、基本は霊障に関しての内容が多いな」


 しかも、霊障の種類で手つかずのモノがかなり多いな。

 歴代の陰陽連のトップは何をしていたのか。

 まぁ、パンドラの箱程度のモノすら放置していたから、こうなるもの仕方ないか。


「Aランク以上の霊障に関しては、とりあえず経過観察ってところか。南極の問題も片付いてないからな。神谷が、国連からせっつかれているとか言っていたし。ただ問題は――」


 俺が居ない間に、意味不明な連中から攻撃を仕掛けられたら困るって点だな。

 書類を纏めて机の上に置いたところで対策室のドアが開く。


「制服の着付けは終わったのか?」


 視線を向けると、婦警の制服を着た竜道寺を連れて神谷が部屋に入ってきた。


「はい。丁度、良い服装がありましたので。それにしても竜道寺君? 竜道寺さん? の、体は、桂木警視監が作られたのですよね?」

「作ったというか、竜道寺の遺伝子を少し弄って男ではなく女として生まれた場合、どういう風になるのかを現実にしただけだな」

「それって……、年齢が若くなることも含まれていると?」

「まぁ、そうだな。年を経っている人間よりも、年齢が若い方がいいだろう?」

「それって繁殖に関してですか?」

「神谷、お前は、俺をどう思っているんだ」

「え?」


 神谷が目を見開く。


「だって、桂木警視監は、妹以外の女性二人と、幼馴染の一人を抱えておりますよね?」

「おい。それって、俺を勘違いしているぞ?」

「そうなのですか? てっきり竜道寺君を若い女にしたのは、それが原因かと思いました」

「はぁー」


 俺は思わずため息をつく。


「言っておくぞ? 俺と年齢的に釣り合う生物は神であっても存在しない。それに……」

「それに……?」

「――いや、何でもない。それよりも、竜道寺を女にしたのは、人間のベース――、基礎的な部分は女がベースになっているからだ。男の肉体は、女の体を運動能力に特化しただけに過ぎない」

「え? それって……」

「だからな。女の身体を――、肉体の操作をまずは覚えることが、戦闘のための肉体を平均的に成長させる近道だ」

「なら修行が終わったら……」

「男に戻すが?」


 神谷は何を言っているのか。

 脳のシナプス形成におけることも、男よりも女の方が優れているというのに。

 ただ、それは平均的に優れているわけであって、戦闘に特化しているのかと言えば、間違っていると言える。

 まぁ、あとは痛みに強いのもあるがな。


「そうですか……」

「何故に、そこで残念そうな表情をする」

「えっと……、竜道寺君、結構、人気出そうなので」

「そうか。まぁ、竜道寺が女の体の方がいいと言うのなら、そのままにしておくが? ただ、その分、修行は更に厳しくなるが、それでもいいなら、それでもいいぞ?」


 俺は、神谷の後ろに立っている竜道寺を見る。

 途端に竜道寺が――、


「……あ、あれよりも……、さらに厳しい……し、修行ですか?」


 ――と、絶望的な顔色で俺を見てくるが、


「お前は何を言っているんだ? 昨日のは準備運動の前段階だと説明しただろ?」


 まったく、俺の竜道寺への修行はまだ始まってすらいないというのに。





 



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