第715話 奇跡の聖女(29)
竜道寺が運転する黒塗りの車は、千葉県警察本部の敷地に到着する。
車から降りたあと、竜道寺も遅れて車から降りてくるが警察関係者の視線が竜道寺に集中した。
「竜道寺」
「はい?」
「その服装は、少し浮くな」
「……たしかに」
ナース服の竜道寺は、疲れた表情で答えてくる。
肉体の感度が常に100倍になっている竜道寺にとって服装の有無は、どうでもいいレベルなのだろう。
「とりあえず、あれだな」
「あれとは?」
「婦警の服を神谷に用意してもらう」
「それは勘弁してください」
「おいおい。さすがに俺もTPOくらいは普段は弁えるぞ? ナース服は、警察本部では合わないだろう?」
「そもそも、女体化している体の方が問題な気がするのですが……」
「細かいことを気にするやつだな」
「細かくはないと思いますが……」
「あれだ。ここで会話をしていても目立つだけだから、俺たちの部署に行くぞ」
「あ、はい……」
日本国政府、内閣府直轄特殊遊撃隊の部屋に到着しドアを開ける。
すると神谷と視線が交わり、その神谷の視線は続いて竜道寺に向けられた。
「竜道寺君」
「はい」
「ナース服での出勤は感心しないわよ?」
「――神谷警視長、突っ込むところは、そこではないと思いますが……」
「諦めなさい」
「……はい」
「それにしても……」
神谷が、ジト目で竜道寺を見る。
そんな神谷の様子に、竜道寺が数歩下がる。
「夜で疲れていたから気が付かなかったけど……。あのゴツイ――、ゴリラみたいな男が、こんなに可愛くなるなんて驚きよね……」
「まったく嬉しくないんですが……」
抗議の声を竜道寺は上げるが、席から立った神谷の身長は竜道寺よりも10センチほど高い。
よって竜道寺の視線は上目遣いになってしまうわけで。
「へんな性癖に目覚めそうね」
「やめてください、神谷警視長」
「分かっているわよ。半分冗談だから」
半分冗談ってことは半分本気だったということか。
当然、俺は、面倒だからそんなツッコミは入れない。
「神谷」
「分かりました。すぐに婦警の制服を用意します」
「ああ。頼んだ」
「まじで、俺が婦警の制服を着るんですか?」
「当たり前だろ。それで男の服を着てる方が違和感あるからな」
弟子からの抗議を一蹴する。
「それでは、桂木警視監」
「どうした?」
「こちらの書類にサインをお願いします」
「サイン? 何か、特殊な仕事でもあったのか?」
「仕事ではなくクレームに関しての書類になります」
「クレーム?」
クレームというのは何か人様に迷惑をかけた上で、ヨソサマから苦情が来ることを言うんじゃなかったか?
俺が、他人に迷惑をかけることなんて……。
「ありすぎて、心当たりがないな」
「ですよね? とりあえず、こちらへサインをお願いします。あとは私の方で処理しておきましたので」
「そ、そうか……」
若干、御怒り気味な雰囲気の神谷から書類を受け取る。
そこには昨日の夜に山王高等学校の敷地内からの騒音についての苦情について書かれていた。
「あ……」
「ご理解いただけたのでしたら、すぐにサインをお願いします。私、一睡もしていませんので」
神谷が血走った眼で俺を見てきた。
「――お、おう」
俺は大人しく書類にサインをした。
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